2022/11/25 ちょっと書いてて思ったんですけどアコードがラスボスはちょっと格落ち感がすごくなってきたんで ラスボス変更します。ラスボスは水の巫女リフレーンです。 これが終わったら途中で放置してたメリーランの続きを描こうと思います。 こんなに長い事絵を描かなかったことがなかったんで今でもちゃんと絵が描けるか不安ですが。 AI技術の進展が待たれますね。 ストーリーは 巨人を下したことで周辺のアニマルたちがメリーランの庇護を求めて集まってくるんですが そこに旧神の台頭を快く思わない勢力が絡んでくる話です。タイトルは七人の悪魔超神編です。 7人中6人はかませにする予定です。ゴリラも出てくるよ。 アコード終 突如光が弾けた。 暗黒の地平が白光に照らされる。常夜の王は不意にめまいを覚え、たたらを踏んだ。 巨人たちの動きがぎこちない。体が麻痺していく感覚。この感覚には覚えがあった。 恐怖だ。 常夜の王は驚愕した。恐怖だと!? それは常夜の王が永劫回帰の燃料にした、捨てたはずの感情だったからだ。 ついで王の脳裏をよぎる記憶にない光景。 王の隣にはいつもタールのような艶のない漆黒の髪の女がいた。 ああ彼女は。常夜の王は思い出す。 彼女だけは王の味方だった。彼女は決して王を否定しない。あらゆることを肯定してくれる存在だった。 それも当然だ。彼女の正体はイマジナリーフレンドというやつだからだ。 彼女は常にアルカイックスマイルを浮かべていた。しかし。王は思い出した。 彼女の柔和な顔立ちを。どこか無機質な、ガラス玉のような眼を。 路傍の石を眺めているような眼。まるで実験動物を見るかのような眼。 その眼がいつも王を見つめていたことを。 (リフレーン!!) どうしてこんなにも大切な存在を今まで忘れていたのだろう。 王は一瞬、呆然とした。 その刹那の間にも、膨大な情報が王の脳裏を怒涛の勢いで駆け巡る。 幼少のみぎり。 デザインベイビーとして生まれ落ち、施設で育てられ、いくつもの試験を乗り越えた時のこと。 しかしたったひとつ、小さなころに味わったペットの理不尽な死をいつまでも引きずって孤立していた。 そこから始まる陰キャラの人生。 (ポーキー……) ニューロンネットワークが明滅し、スパークと共に失われたはずの情報が次々と蘇っていく。 白い施設。子供たちの歓声。過密なスケジュールの合間を縫って遊んだ中庭。 四足の獣。その獣のことを思うと王の胸はまるでしめつけられるかのように痛んだ。 そう、あの獣はポーキーだ。 猪を家畜化した品種で、人懐っこい。顔を見ると餌がもらえると思って尻尾を振って近寄ってきていた。 かけっこをして遊んだ。子供たちは皆ポーキーをかわいがっていた。ある日の昼食。食卓に並んだ豚肉。 (ああ……、ああっ!) 常夜の王は身もだえる。捨てたはずの辛い、悲しいだけの記憶。 ささくれだった痛みが心を突きさし出血を強いる。 子供たちは肉を食べた。王は、それを拒否した。 未開の部族でもあるまいし、愛するものの一部を食べて自分の血肉として生きるなどという わけのわからない倫理観など到底受け入れられなかったのだ。 (り、リフレーン……助けて!リフレーン、過去が私に追いついた!!) 常夜の王はついに悲鳴を上げた。 一瞬目の前をリフレーンの姿がよぎった気がしたが、すぐに波濤のような記憶の津波に呑まれる。 アコードの記憶を巡る旅が始まった。 性差を意識し始め、自分の体と心がズレていることを知り、試験の負荷にも耐えられなくなりつつあった頃。 アコードは彼女と会った。 彼女は、リフレインと名乗った。 「私は、あなたが生み出した頭の中のお友達なのよ」 リフレーンはアコードに優しかった。 アコードが淋しい時、困った時、そこに必ずリフレーンは現れた。 彼女と会うと、不思議と嫌な事や不安を忘れた。 色んな話をした。 「ビッグバンから1秒のうちに、超高温だった宇宙は膨張により急激に冷え、数兆度から数十億度にまで下がった」 「その頃の宇宙はまだ出来立てで、そこは光の海で満たされていた」 「宇宙は均一に見えたけど、そこには微小な密度のゆらぎがあった。インフレーションがゆらぎを拡大し、銀河を形成させたの」 特に星の話が多かった。アコードは最初不思議に思ったものだ。自分の頭の中に存在するリフレーンが、どうしてこんなにも自分の知らない話を知っているのだろう。 その疑問もすぐに忘れた。リフレーンの話は、孤独を忘れさせるほどに興味深いものだったから。 「銀河内部のすべての星からの重力を集めても、星々を繋ぎとめておくには足りない。バラバラに散らばっていくはずなの。でも銀河はそこにあった」 「だから昔の科学者たちはそこに光を出さない、しかし重力を発生させる物質が、暗黒物質が存在するはずだと考えたの」 「まあ実際は、あなた達が神帝と呼ぶ龍が力技でつなぎ留めていたんだけどね。つまらない話よ」 リフレーンは空想や妄想のたぐいも話してくれた。 それらは滑稽で壮大で、アコードを飽きさせなかった。 アコードはすぐにリフレーンの話に夢中になった。 「閃熱巨龍ヌペトルゥ。インフレし続ける宇宙の膨張速度を超える速度で外銀河から飛来し、この銀河を創造した年寄りのEGG」 「銀河の死の間際にファイナルフォースが現れる。ファイナルフォースとは、その銀河生命体の集大成。EGGを産む依り代にして新世界のルールを定める者」 「EGGは銀河の卵なの。崩壊する銀河、星々の断末魔を集めて新たな銀河を作る卵」 「その卵を手にした者は、まさしく新世界の神になれる」 その時、アコードは思ったものだ。 わたしならその卵でイデア界をこの世に作ると。永遠不滅の真の実在。 電子書籍で読んだ、大昔の空想本に出てくるイデアという概念。 アコードはこの頃イデアに夢中だった。 善のイデアが頂点に立ち、その他すべてのイデアは善のイデアに従う。そこに孤独や悲しみは存在しない。 そこでなら自分も幸せになれると思っていたのだ。 帝国の敷いたレールから完全に外れたのは偶然だった。 課外実習でとある座標に航宙船で運ばれている途中の事故。 突如軌道を変えた廃棄された衛星に衝突し、辺境の惑星に不時着した。 アコードが目を覚ますと、そこには大破した航宙船と自分以外の乗組員の死体。 大いに繁栄した樹木と雑多な生命が跋扈する大地。 辺境の星をリゾート化する途中で、開発会社が不渡りを出したのであろう。 中途半端に人間が居住可能な、捨てられた惑星にアコードはいた。 (死んだことにして、ここで新生活を始めよう。大丈夫。すべて上手くいく……) 内なる声がアコードを動かした。 突発的な行動だった。墜落地点から少し離れた場所は鬱蒼と樹木の茂る密林で、多様な植生がアコードの侵入を拒んだ。 それでもアコードは道なき道を歩いた。管理された人口の箱庭で育てられた自分が、驚異的な自然を前にしても足を止めなかった。 そのことを思い出すと不思議な気持ちになる。 だが、その時はそうしなければならないという断固たる決意があったのだ。 そこからのことは、まるで何かに導かれているような、都合のいい展開ばかりが続いた。 まず、その星には同じホモサピエンス種である知的生命体がいた。テラフォーミングを進めていた開発会社が連れてきた労働奴隷。 それらが開発終了後も回収されることなく放置された結果土着化し、独自の文化を形成していたこと。 その文明は、お粗末なものだったが一からすべてを始めるよりは大いにマシだった。 アコードは彼らのなけなしの成果をかすめ取り、しかし交わることはなくひっそりと森の奥で生活を始めた。 それからわずか数か月、天から竜兵が飛来した。この間自殺した人の事ではない。 ユニクロ社の製造した人造生命兵器ドラゴンソルジャーの事だ。 圧倒的な火力と殲滅力。強靭な肉体と高度な知能。その割にそこそこのお値段で無人戦闘兵器の牙城を崩しつつあった傑作兵器。 その1体が、どういうわけか帝国軍の一個中隊相手にこの星を決戦のバトルフィールドに選んで戦闘を始めたのだ。 圧倒的な破壊を伴う戦火が原住民とアコードの生活を脅かした。死ぬよりはマシだ。 アコードは速攻で日和ると帝国軍に保護を求めた。 しかし帝国軍の、それも外縁部を守る部隊なんて末端も末端で、労働奴隷たちと大差がない出身のものばかり。 はっきり言って弱かった。 当然のように戦闘は帝国軍に不利だった。そして指揮官も、AIの立案する作戦案を無視した行動ばかり取る無能だった。 それも当然で、この指揮官は腕っぷしで中隊長まで上り詰め、周囲もその腕を頼んで集まった者ばかりだった。 圧倒的な力を持つ者への弱者の憧憬がこの指揮官を指揮官たらしめていた。 軍人というよりは無頼たちの親分といったところだ。 その親分が、求心力を捨ててAIが立案する人命無視の作戦行動を取れるはずがないのだ。 アコードは決断する。 やるなら軍師。この廃星での生活は、将来のことを考えると割に合わない。 そしてアコードはガリと出会った。 むき出しの野心によりギラついた眼。分厚い手の皮。広い背中。目元を緩めると途端に優しい顔になる整ったマスク。 人にしては強い力。そして心に秘めた悲しみ。 普段はツンツンしてるけど時折チラリと見せる他者への優しさ。 アコードは速攻で恋に落ちた。ツンデレが好きなのだ。 陰キャラはちょっと優しくされるとすぐその相手を好きになってしまう。 12/19 2週間の研修終了。 からの来月中旬からまた約2か月の研修。 人生いくつになっても勉強なんだなって思いました。 まだまだ若いつもりだけど最近ふとした瞬間に老いを感じる。 だけど昔ほど年を取ることが怖くなくなったかなあ。 死ぬのはすごい怖いけど。 (この愚かで優しい男を、王にする。そして理想のイデア国家をこの世に造る) アコードはガリの裡にイデアの光を見た。だからだろう。アコードが、ガリに協力しようと思ったのは。 共に国を造ろうと誓い合ったりまでもしたのは。 そこからアコードの人生は始まったのかもしれない。 何のために生まれてきたのか。何のために死んでいくのか。 あの日、ガリ達がドラゴンソルジャーを倒した丘で。アコードはそれがなんだかわかったような気がした。 乾いた砂が水を吸うように、実地経験を得てアコードの知識は花開いていく。 その知を以てアコードはガリと、彼の部下たちと共に国を造り始めた。その事業に寝食を忘れるほどに没頭した。充実していた。 いつしかイデアの世界ではなく、この日々にこそ価値を見出し始めていた。 理想、渇望、憧憬、愛、欲望。あらゆる感情がアコードのこころを心地良くかき乱した。 (この時間が、永遠に続けばいいと思った) 期間にして数年にも満たない人生の黄金期。 その夢のような日々は、アコードのこころのタガが少し緩んでしまったことで終わってしまった。 ガイアという女への嫉妬。暴走する理性。破滅の告白。 そこがアコードの夢の終わり。愛の墓標。あの日、驟雨の降る中自ら命を絶ち、リフレーンによって少しだけ時を巻き戻された。 そう。リフレーンが。あれは、イマジナリーフレンドではない。 アコードはリフレーンについて考えを巡らそうとするが、それを邪魔するように怒涛の勢いで情報が脳裏を駆け巡る。 死のイデアとの邂逅により歪んでいく認知、狂気の芽生え。新たな知見。 時とは、川のように流れ去るものではない。巻き戻せるものならば。 (光を。あの日見た光を、もう一度) (ぬくもりを……) 恋慕の情を優先した結果、壊れてしまった関係。 もう血迷わない。あの光の中に戻れるのなら、自分のこころなんていらない。 ガリの腹心として、良き友として隣にい続けるだろう。 (光……) (帰りたい……) それこそがアコードの、自分でも忘れてしまった、忘れさせられてしまった本当の望み。 その結果常夜の国などという己の墓標じみたものまで立ててしまった。 やはり死のイデアの影響があるのかもしれないとアコードは思った。死とは、人の手に御せる代物ではなかったのだろう。 死のイデアに憑依してから先の行動は正気を失っているとしか思えない。 とうとうアコードは認めざるを得なくなった。この永遠の今IN常夜の国構想は失敗だ。 ここは暗すぎて、善のイデアが統治する世界からは程遠い。 (もっと光を……) (あ、あ……?) 追憶の旅が終わり。 そこから新たな情報の開示が始まった。 それはクリムトと捨てられた情報群や魂たちが演じた思考実験の結果だった。 集団で孤立しなかった自分というIf。 傍に立つ者がリフレーンではなく、クリムトだったらというIf。挫折を乗り越え。 数々の試験を仲間と共に乗り越え。帝国の中枢を担う官僚となり。ジェンダーの問題も社会と上手に折り合いをつけて躱した。 100点の人生ではない。だが人並み以上に生きている自分。 どの場面を切り取ってもそこにはアコードの笑顔があった。これが正解なのだと言わんばかりに咲き誇って。 それは、陰キャラのアコードを打ちのめすには十分だった。 自分の生きてきた道を全て否定されるような感覚。それも自分自身に。 過去は自分に追いつくだけでなく、ご丁寧にのしを付けて帰ってきた。 アコードは虚を突かれて、記憶の旅よりもよほど長い時間呆然と虚空を見つめていた。 存在の耐えられない軽さ。何故自分はここにいる?何のために生まれてきた? (……?) 再びの衝撃。今度はハード面だ。ぼんやりとした目でアコードは身の回りを眺める。母体の赤子が崩れ落ちていた。 四肢を斬られている。いや、今現在も無数の攻撃に晒されている。思考がまとまらない。アコードは我を忘れていた。 (攻撃されている……されている) (迎撃しなくては) (でも、何のために……?) アコードはなんだか力が抜けてしまった。 身もふたもないが、こうなったのは自業自得なのだ。望んだ道ではなかった。選択肢は狭められ、或いは誘導されたのかもしれない。 こんなところまで歩いてきてしまった。だが、歩いたのは、やはり自分の足なのだ。 多くの命を弄び、非道を尽くした実感がある。あの燃え盛るような狂気は波のように引いてしまっていた。 内なる魂たちの怨嗟の声が聞こえてくる気がした。 (もう終わるべきだろう) (我欲を満たすために一体どれだけの命を奪ってきた) 次はお前の番だと声が囁く。 それは自身の声だったのか。内なる魂たちの声だったのだろうか。 アコードに、奇妙なバランス感覚が芽生えていた。 西南戦争、城山の戦いで官軍に四方を包囲された敗軍の将、西郷隆盛が別府晋介に「晋どんもうここらでよか」と介錯を頼んだような。 (これ以上見苦しい姿を晒すのは……) 赤子の上の去人たちが一斉に腕を降ろした。 アコードは消極的な自殺を選んだ。すなわち、好き放題攻撃をされ続ける選択だ。 一切の抵抗をやめて、微動だにしない。ルコンと、その仲間と、死せる戦士たちはこれ幸いと大攻勢に打って出た。 音を置き去りにして槍の一突きが、赤子の顔に風穴を開ける。 風の巨人の理力の剣がアコードを激しく斬りつける。 ゲッツは自分を恨んでいるのだろうとアコードはふと思った。 ゲッツにとって喉から手が出るほどに欲しかった等身大の自分をさらけ出せる仲間。 皆共同体から多かれ少なかれ弾かれて、食い詰め、軍に合流した者たちだ。 きっとシンパシーを感じていたのだろう。同じ釜の飯を食い、同じテントで眠った。 汗と血と涙を煮詰めて作った絆。 それは、ゲッツにとって下手な血縁よりも重いものだったに違いない。 何かの折、極限の状態に追いやられると、全てを捨てて逃げてしまうと、ゲッツが苦しそうに語っていたのを覚えている。 そのことにコンプレックスを持っていた。 大真面目な顔をして悩みを自分に吐露する姿に、最初は何の冗談だと思ったものだ。 そんなものは誰だってそうだ。生物の性というものだ。だというのにこの男は。馬鹿みたいに真面目なのだ。 決死隊に志願した時のゲッツの表情を忘れることはできない。 仲間のために命を捨てる。ゲッツはその選択を自然と取っていた。 いつの間にかなりたい自分になれていたと気付き、その事を噛みしめるように微笑んで、想い人に別れを告げていた。 あの時アコードは、ゲッツに二度目の恋をしたのだった。茶番ではあったが、あの日々は確かに自分の中でも特別だった。 確かに彼らの仲間だったのだ。 それを手ひどく裏切り、彼らを死に追いやった。恨まれて当然だ。 鋼の如く鍛えられた拳足が流星の如く降り注いで去人たちを打ち据える。その体系立てられた拳法にはどこか見覚えがあるとアコードは思った。 昔、戯れに宗教団体を創ったことがあった。最初は戯れ、徐々に熱が入り、こうであったらいいという自身の理想を詰め込んだ。 常世を探究するために足抜けしてしまったが、内心後ろ髪を引かれる思いだった。 たしかその宗教団体の格闘術にこんな技があったような……。 とりとめもなくぼんやりと思考が入れ替わる間にも、時代の新旧が入り混じる拳が、蹴りが、剣が、槍が、弓が、常夜の王を傷つけていく。 エントロピー増大の法則に従い、ゴッデスの効能によってカオスエネルギーにコーティングされた武器が、 死者たちの想念を束ねた理力が、常夜の王をロウからカオスへと崩壊に導く。 傷口からいくつもの不定形の魂が飛び出して自我を取り戻し生前の姿を象った。 彼らのうち、戦士だったものは己の使い込んだ武器を向け、そうでない者たちは、拳を握りしめてアコードに向かってくる。 明日は我が身だファイティングポーズ。 アコードはそこに、生まれ出てすぐに母体を貪り食う虫を連想して気分が悪くなった。 それと連動するように暗黒の空間に少しずつ光が戻り始める。常夜が終わり常世に戻ろうとしているのだ。 それは、アコードの終局を意味している。 やがて地平が茜色に染まりだした頃、ついにアコードは目を閉じた。見たくなかったのだ、滅びの瞬間なんて。 風切り音と身体を震わせる鈍い衝撃にアコードは再び目を開ける。 アコードの目に、イアハの剣がルコンの剣を真っ向から受け止めているのが映った。 (……なにっ) レギオンが理力の斧を無数に出現させ雨あられの如くに投擲して死せる戦士たちを迎撃している。 リズミガンは魔道で力場を発生させ射手たちの放つ一矢を受け流していた。 (魔将達?いや、意思を感じない。これは……) (私が反撃している?無意識のうちに……) 何という生き汚さだろうと、アコードは惨めな気持ちになった。 だが思えば。 遠い昔、自分の生きてきた時間からすればほんの瞬きする間の出来事。 その一瞬を永遠にしたいと、ただその一念でここまでのことをやったのだ。 (ガリ……ポルポトース。私の光……) (青春の光……) (……) (ううっ、ううう〜!) 今さらというものだとアコードは思い至った。 毒を喰らわば皿までと言うではないか。 ここで中途半端に投げ出したら、本当に何のために生まれてきたのかもわからない。 (身体はまだ、あきらめてはいない。私も……このまま終わるのは、やっぱりヤダッ!) (ここまでやって、こんな終わり方はイヤだっ!私も) (私も幸せになりたいッ!!) 胸を焦がす衝動があった。 誰よりも愛されたいと願い、美しいものに憧れながらも、我欲に振り回され汚泥の中をのたうち回った。 男にも女にもなれなかったはぐれ者の心の底、くすぶり続ける熱が諦めを許さない。 (私は還る。あの光の中に……) 再び雄叫びを上げる。 アコードの世界律が永遠の今ver1.1にアップデートされた。いや、本来の望みに沿ったものになったというべきだろう。 人生で最も楽しかった時代に戻りたい、ただそれだけ。 後ろ向きで何の発展性もないノスタルジー。だがそれこそがアコードの願いなのだ。 その狂おしくも切ない衝動に、アコードは身を任せることにした。 (結局やることは変わらない) (神の器を取り込み、無限のフォースを以てあの日々にまで時を巻き戻す) (その障害になるゲッツ、閃熱の巨龍は排除する。状況はとてもシンプル) (押しつぶすだけだ。無数の魂の圧で!) もう迷わない。アコードは意気をあげるとソプラノの咆哮をあげた。 常夜の王をオートからマニュアル操作に切り替えて掌握、巨人たちを操作し始めるやいなや、たちまち死者たちの猛攻に対処し始める。 (勝負だゲッツ!) 私とお前。その望み、世界律。どちらの熱量が上!? 4体の巨人たちが各々の武器を握りしめる。8つの目が敵を睨みつける。 赤子は四肢に力を込めると飛蝗のように跳び上がった。 アコードの最期の挑戦が始まる。 時は少し遡る。 ルコン達が動きを止めた常夜の王に対し反攻に転じようとした矢先。 巨大な赤子の頭部が突如弾けた。 遅れて風切音が、 「そそそそそそぃっ!」 甲高い奇声が続く。 そこでようやくルコンは音を置き去りにする速度で、何者かが槍を突いたのだと気付いた。 それに、音が戻ってきている。足元のふわつくような感覚も消えた。 振り返ると、遠くから大勢の死者たちが、クリムトに先導されて駆けてくるのが見えた。 「クリムトが帰ってきた!大勢仲間を連れて帰って来たぞ!」 ドスが大声で叫んだ。この時ばかりは皆笑顔になった。クリムトが生きていた。それも、援軍まで連れてきたのだ。 だが、とルコンは思った。 後ろに続く武装した戦士たちは一体。それにあれほどの遠間から敵を穿つあの槍技は……。 こんな神の如き槍捌きができる人間を、ルコンは一人だけ知っている。 目を凝らして、戦士たちを眺める。果たしてそこに意中の人物はいた。 白銀の鎧、翻る赤いマント。寂しい頭頂部。 「先生ッ! ステルメン先生!」 喜びと悲しみがない交ぜになった感情が爆発してルコンは叫んだ。 にやりとステルメンが笑ったように、ルコンには見えた。 クリムトは駆けながら叫ぶ。 「話は後だ!常夜の王の動きが止まっている間に討ちとる!」 呆気に取られているルコン達の横を駆け抜けていく。 目ざとくジョンが死者の列に交じって駆けだした。ドスも頭を切り替えてガイアソードを肩に担ぐとジョンに遅れて駆けだした。 そうしてすぐに隣を走る男を見てぎょっとして叫ぶ。 「あれっ!ノベ村のハズリさんじゃないの!ミッドリバーの戦いで死んだ」 ハズリと呼ばれた、粗末な槍を持った男ははにかむように笑ってドスの背中をバシバシと叩く。 ドスはそれがなんだか嬉しくて、ほんの少しさみしくて涙が出た。 ルコンはその様子を見て彼らの正体がわかった。 ここは常世。死者たちが集い、輪廻の大渦に飛び込むまでの仮の宿。 ならば死者たちが戻ってきたのだ。それは、アコードの支配が弱まっている証拠だ。 トゥルーマンは呆然としている。この状況を上手く呑み込めていないようで、何が起こっているのかを把握しようと しているのかあちこちをきょろきょろと眺めては何かを考えている。戦闘どころではなさそうだ。 ルコンはと言えは、ステルメンと並走するように駆けだしている。視点が低い。 そこで、自分がいつの間にかオーバーボディを解いていることに気づいてあっと声をあげた。 (何やってんだ俺は。この重大な局面で、先生を見て気が緩んだのか?) 「それでいい」 ルコンのこころを読んだかのようにステルメンが常夜の王を見やりながら淡々と語る。 「だって怪物を倒すのは人間と、古来より相場が決まっているからね」 「私も人の技と力で戦うとしよう」 仮初の、竜の力など使わず。 ステルメンの言葉がすとんと腑に落ちた。 考えるな感じろ。感覚に従え。これでいい、これが正解だと直感が告げている。 静止したままの常夜の王。 皆思い思いに距離を取ると戦士たちは己の武器を常夜の王に向け構えた。 口火を切ったのは先駆けのクリムトだ。 岩をも砕く剛拳を常夜の王の前足に叩きこむ。重爆正拳だ。 常夜の王もこれにはたまらず地に崩れ落ちる。 「ウーラアアアアアアアア!」 騎乗する戦士のひとりが古い神に祈りを捧げる言葉を叫ぶ。 それを契機に騎乗するプレートアーマーを着込んだ戦士達が整然と隊列を組んで突撃を開始した。 そのあまりの迫力にルコンは息をのんだ。きっと名だたる戦士達に違いない。 長身のランスに速度と質量を乗せて衝撃力を増し、常夜の王に馬体ごとぶつかる勢いでランスを突きこむ。 常夜の王がその凄まじい破壊力によりひしゃげた。 抜けた衝撃が表皮を破る。その破れた場所からいくつかの不定形の塊が飛び出した。 それらはすぐさまヒトガタを象り、生前の姿を取り戻していく。 常夜の王に吸収された魂の一部が解放されたのだ。 大多数は戦士ではない。女、子供までいる。だが彼らの闘志は戦士達に勝るとも劣らない。 皆ファイティングポーズを取っている。最高だぜ。こいつら揃いもそろってやる気だ。 「踊れェ〜!」 ルコンはそう叫ぶとマロウドの剣を理力で創造し、常夜の王へ斬りかかっていった。