2022/3/21 愛犬のめろんちゃんが死んでしまって自分でもびっくりするくらい何もする気がおきない。 別の犬飼おうかなんて言われた時マジで人間って一生分かり合えないんだなって思ってもっと悲しくなった。 愛別離苦ってこれかあ。しんどいねえ。 めろんちゃん僕が落ち込んだ時いっぱい手をなめてくれてありがとう。 僕が無職になっちゃった時、頑張って働こうと思わせてくれてありがとう。 寒い時布団にもぐりこんできて温めてくれてありがとう。 いろんなところに散歩に行ったねえ。 僕は楽しかったけどめろんちゃんはどうだったんだろう。 小さい時に親元から離されてしまったせいでほかの犬とあまり仲良くできなかったのは 僕のわがままのせいだったんだよなあ。 本当にごめんよ。 僕ばかり幸せにしてもらったなあ。 本当にありがとう。 大好きだよ。 「苦戦しているようだな」 どこかぼんやりとしていたレギオンは、リズミガンの呼びかけではっと我に返った。 いつの間に隣に立っていたのだろうか。女帝が、レギオンを半笑いで見ている。 「ぼんやりしている暇があるのか。見ろ、奴ら突撃をはじめた」 木偶では抜かれるぞ。 リズミガンの指摘に、レギオンは舌打ちをしそうになったが理性でそれを抑えた。 はっきり言ってレギオンはリズミガンを嫌っていた。 苦労を知らぬ、生まれついての貴種が持つ独特の雰囲気。それがレギオンの癪に障るのだ。 だが、それを表に出すほど幼稚な男ではない。 (いけ好かない奴だが、年長者に対する礼儀ってもんがあらあな) レギオンは努めて大人の対応をすることにした。 「消えろ。ぶっとばされんうちにな」 両手の中指を相手に向けて立てるハンドジェスチャーもセットだ。 これにはリズミガンも柳眉をハの字にして苦笑いをした。 「ふふふ。ご挨拶だな。まあ聞け」 レギオンは身構えた。 この女の言葉にはいくつもの棘がある。毒もある。 こんな時に聞きたいものではない。 3秒間の無言。 リズミガンは少し溜めて間を作った。 演出というやつだ。スピーチの時はすぐに喋りださない。 3秒ほど黙ると人は何事かと思って注目をする。 充分に耳目を集めて、そこからがスタートだ。 リズミガンはレギオンのいぶかしげな視線を3秒の間受けとめて、話始めた。 「お前、手を抜いているな」 レギオンは思わず舌打ちをした。 4人の戦士達が駆ける。 降り注ぐ矢雨を、ゲッツが頭上に展開させた風の膜で防ぐとともに、頭上を旋回する告死鳥とそれに騎乗するヨモツイクサを ミラージュソードを飛ばして切り捨てた。 矢と鬼は地に落ちると同時に黒い煤へと変わる。 その変化を見る暇もなく、恐るべき速度で駆ける戦士達が、駆け抜けざまに敵の少勢を文字通り蹴散らしていった。 縦横に深い敵陣がみるみる眼前に近づいてくる。 「ガイアソード、いっちょ頼まぁ」 「オーケー」 ドスの呼びかけに、ガイアソードの無機質で間延びした声が応答する。 たちまちガイアソードの刀身は伸びた。 その長さ、実に13キロメートル。 ドスは、ガイアソードを最大刀身まで伸ばすと前方に向け縦に振るった。 超質量の鈍器が最大13キロの高さから敵陣に向かって落下する。 敵陣は文字通り縦に割れた。 ガイアソードの刀身は、メメント・モリにまで達したが、衝突の瞬間、蜃気楼のように揺らめき、気づけば刀身の先端は地に落ちていた。 恐らくは地上で見た発狂空間的な何かで軸をずらされたのだろう。 ドスは一瞬固まるも、すぐに意気を取り戻す。 「駆け抜けろおお!」 ドスが吼えた。 3人はそれに呼応すると、蛮声を上げてさらに速度をあげる。 敵陣に生じた一本道を駆ける。 ゲッツ達の呼吸は乱れ、心臓が強く胸を叩いた。 目がちかちかとする。 ウラジミール、君と僕は同じ未来を見ている。 行きましょう。ロシアの若人のために。そして、日本の未来を担う人々のために。 ゴールまで、ウラジミール、2人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか。 胸中を謎の中毒性あるポエムが駆け巡る。 酸素が足りない。 しんぞうが痛い。 ゲッツは喘ぎながらも鋭く剣を振るって眼前に続々と迫るヨモツイクサを斬り飛ばし、加速する。 しかし、ついに一本道が途切れた。 するとクリムトの放ったピンク色の光弾が、ゲッツの20メートルほど前方、ヨモツイクサが密集する地点に次々と着弾し黒い煤に変えていく。 敵軍に生じた穴にジョンが体をねじ込んだ。 たちまちミキサーのような剣風が敵を切り刻み、穴を塞ごうとする敵を防ぐ。 そこへドスが駆けつけてジョンとスイッチし、再び超質量の鈍器が振るわれた。 いい感じだ。 戦場を俯瞰する余裕がある。 幾度かのローテーションによる小休止、その時間を使ってディスカッションした結果 従来の守りの姿勢から攻勢に転じることを決めた。 合理的な考えからではない。 3人の卓越した戦士としての勘が、そうした方が良いと一斉に囁いたのだ。 これには戦士よりも指導者としての面が強いクリムトも首を縦に振るしかなかった。 乾坤一擲を以て敵陣地を縦断し、常夜の王を討つ。 そのために、ウラジミール、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか。 突如強烈なプレッシャーが4人を襲った。 黒い何かが、ゲッツの前方を走るジョンに飛び込んでくる。 ジョンは躱し切れなかった。 達人の受け身術、浮葉で衝撃を受け流すも、そのまま何者かとともにゲッツ達の後方へと吹き飛んでいく。 たちまちジョンはヨモツイクサの黒に呑みこまれ、そこから生じるふたつの剣風。 ギャリギャリと金属音が鳴り響く。 「……!」 凄まじいプレッシャー、ゲッツの脳裏をある魔将が雷光のようにフラッシュバックする。 ゲッツは叫んだ。 「風の魔将だああああああ!」 足を止める3人。 すると3人の脳裏にジョンの声が響きわたった。 (行け。こいつは俺が始末していく) (メメント・モリで会おう) マジナ人の不思議な術、これはテレパシーというやつだ。 3人は一瞬固まる。それぞれの顔に葛藤が浮かんだ。 一瞬のうちに、倫理や情や畏れがめまぐるしく浮かび上がっては消えていく。 ジョンを助ける。 意思の天秤がそちらに向かって落ちようとするのをクリムトが止めた。 努めて真顔で、非常の決断を下す。 「行こう!」 ウラジミール省略。 3人は、もう迷わなかった。さよならだけが人生だ。 2022/3/27 ゆっくり書いていきます。 感想にあった挿絵を入れるって案はちょっといいかもと思いました。 メモ帳に書きなぐってるだけだからこっちには貼れないけど トップに置いてもいいかもしれないですね。 最近絵を描いてなかったんでリハビリにもなるし。 黒い剣風が吹き荒れる。 ジョンはその脅威を、半ば本能で二刀を振るって迎撃した。 遅れて鈍色の剣風が吹き荒れる。 自然、周囲にいたヨモツイクサは切り刻まれて黒い煤に変わった。 耳障りな金属音が止むころには半径5メートルほどの円形の空間ができている。 おあつらえ向きの決闘空間だ。 (……!) 烈風が吹いた。 一本の角を額に生やした片刃のロングソードを振るう鬼、風の魔将の最上段からの切り落としだ。 気流を生じさせるほどの勢いで放たれた一撃を、ジョンは魔剣で受け流そうとして、凄まじい衝撃に態勢を崩す。 たまらず後ろにのけ反った。 肘から先の感覚がない。 ジョンはのけ反らされた勢いに逆らわず、後ろに転がりながら距離を取ると、己の右手を見た。 右手はきちんとついている。 (なんて馬鹿力だ) 鬼はゆっくりと距離を詰めてくる。 ジョンは鬼の顔を見る。 鬼の放つ凄まじいプレッシャーは、まるで物理的な圧力を伴っているかのようで ジョンの総身を重くする。 しかしその顔は無表情で、何の感情もうかがい知れない。 目はこちらの全身をぼうっと捉えている。いわゆる遠山の目付というやつだ。 これではこちらのかすかな動きも見逃すまい。 (理性で動いている。さすがに魔将、ヨモツイクサとは違う) 虫や、獣ではない。 そして、理合で動く確かな足運び。 一見無造作に歩いているようで、一歩一歩が考え抜かれている。 こちらの動きを潰し、或いは取りうる選択肢を狭めて誘導しようとしている。 達人だ。それも超がつくほどの。 (初戦は不意打ちが面白いように決まったが、こうなると分が悪い) 体格も刀身もフォースも向こうが上。 勝っているのは剣の質と。 (何より、家族がついている……) ジョンは薄く微笑んだ。 彼らがジョンの見えないものを見て、聞こえないものを聞いてくれる。 (それで駄目なら諦めもつく) その時は、自分も彼らと同じ階梯に行くだけだ。 そうしてジョンは、思い切りよく自身の生存を路傍に打ち捨てると プレッシャーを放ち続ける鬼とは正反対に、どんどん己を希薄にさせていった。 空に溶けたのではないかと思うほどの陰行。 ジョンは先ほどの打ち合いで、真面に打ち合うことを諦めた。 モノが違い過ぎる。 打ち込みもあれほどの鋭さで放たれては、浮葉での受け流しは効果がないだろう。 誠に遺憾ではあるが、ジョンは左手の聖剣を地面に放った。 聖剣は、地面に突き刺さった。 これには大正義剣ニチダイサンコー(この名前入力するの恥ずかしい……)も抗議の明滅を繰り返したが、片手で相手の両手剣を受け止めるのは無理だ。 ジョンは別にどちらの剣でも良かったのだが、いや、やはり魔剣だ。 長年使い込み、その剣には家族の魂が宿っている。 最期まで一緒にいたいのが人情というものだ。 それは、当然の帰結だ。 ジョンは魔剣アイラビュー(この名前入力するの恥ずかしい……)を中段に構えると、すり足で徐々に距離を詰めていく。 (無想剣生……) ジョンの失われた愛の想念が剣に乗る。 すると、鬼は半歩後ろに下がってジョンの剣の間合いから逃れた。 (まあ、そうなるわな) 手の内はもう見せてしまっている。 対応されて当然だ。こうなると間合いが大事になってくるが、タッパも刀身も向こうが上。 ジョンにとってはかなりの不利だ。 (奴の間合いに身をさらし、一撃を誘って、刀身を斬り落としてやろうと思ったんだがな) 2022/3/28 いつものことですけど、割とその場の雰囲気で書いているので 話の整合性が取れてないかもです。 全体の流れもほとんど覚えてなくて、かといって読み返すのは 恥ずかしくてできないので。 すいません。 どうもお互いに後の先狙いらしい。今の駆け引きでわかった。 こうなるともう、神経をすり減らす戦いを、どちらかが我慢できなくなるまで続けるしかなくなる。 間合いを制するための戦いだ。 ジョンは、横目でヨモツイクサたちを見た。 どういうわけか、遠巻きにこちらを見ているだけで寄ってこない。 魔将が何か干渉をしているのだろうか。 (まあいい。好都合だ) これで目の前の敵に集中できるというものだ。 鬼が右足で踏みこみ、反発力を利用して−ジョンが右肩をわずかに上げるー左足を咄嗟に前に出して急制動をかける。 そのまま後ろに跳んだ。その時、少し体がぶれた。鬼の右手首に打ち込める隙がある。 ジョンが追撃しようと3歩進んで、2歩下がった。 あえて打ち込ませようとしているのに気づいたのだ。 彼の兄が気づかせてくれた。 どちらかが踏み込むとどちらかが下がる。 そんな攻防を繰り返して、結局開始時の位置に戻ってきていた。 互いにまだ一撃もくらっていない。 だがよく見ると、全身の至る所にみみず腫れが出来ていることに気づくはずだ。 ただの鉄の棒を焼けた火鉢と思い込ませて手に当てると、みみず腫れができるとかいうオカルトを 漫画とか漫画映画とかで一度は目にしたことがあると思うがそんな感じだ。 殺気すら伴う高度なイメージによる読み合いは、体に誤反応を生じさせているのだ。 この勝負は今のところ均衡を保っているが、時間が経つにつれやはり間合いの狭いジョンが不利になる。 無想剣生というチートも、この距離では意味がない。 近距離で、お互いに刃物を持って向かい合っているのだ。 生身で刃物の一撃を食らえば終わりなのは互いに変わらない。 漫画とかでよくある腕一本切り落とされても腕だからセーフ、切り落とされて血がたくさんでるけど 何故か傷口が焼けるから血が出ないのでセーフ理論みたいなのはないのだ。 (まずい。負ける……) 集中力が切れ始めた。 彼の家族による介入が増えてきている。 鬼の攻防を、自力で知覚できなくなっているのだ。 (……裏技を使うしかない) ジョンは純粋な剣での戦いに見切りをつけた。 そもそも初手で奇襲を上手に捌けなかった時点で、負けている。 あの時に、例えば無想剣生を纏えていれば一撃で勝負がついていた。 五体満足で生きているのは、本当に運が良かったのだ。 (剣での戦いは、お前の勝ちだ。命を取られるのもまあ、仕方ない。だが、これ以上は譲らん) (なんとしても、お前はここで終わらせる) そのための奥の手がある。 それは、マジナ人としての能力。 ジョンは剣士としてのささやかな誇りを諦めた。 そんなものを後生大事に取っていたせいで、仲間たちの背後を襲われてはたまらない。 仲間。そう、仲間だ。 ジョンははっとする思いがした。 マジナ人は孤独な民族だ。 ぶよぶよとしている、毒持つ生物のような肌の色。 異民族には醜いと思われる容姿。 まるで魔法のような数々の異能。 それらは、ホモスだけでない全ての人種から疎まれていた。 かといってヒニンのように隠れ住むこともできず、かつて貴い者から与えられたという 猫の額ほどの土地にしがみついて生きてきた。 彼らは、だからかもしれない。誰よりも救世主を待ちわび、いつか、ここではないどこかへ行きたいと願った。 魂に刻まれるほどの孤独を癒すすべを救世主に求めた。 ルコンのことを考えると、救われるような気持ちがする。 戦場から逃げてきた若い兵士だと思っていた。 哀れに思って、厳密にはジョンの上司が見逃してやったのだが、それから縁があって何度か顔を合わせた。 顔を合わすたびに恐るべき速さで強くなっていく。 何故か目が離せなかった。 それは、彼が持つひねくれて所々断絶しているフォースの流れのせいだったかもしれないし、 そのフォースの根源に、何か大きなものを感じたからかもしれない。 だが、それ以上に目が良いと思った。かつて遠くから見たガリと同じ目。 打ちのめされて泥に塗れ、失い、それでも何かを追い続けるギラついた目。 それは、折れてしまった自分が、ついに持てなかったものだ。 自分にないものを求めていたからこそ、ジョンはルコンを放っておけなかったのだ。 ルコンがマジナ人の求め人だったことを知った時、だからこそ驚きは少なかった。 ああ、そうかといった感じで全てが腑に落ちたのだ。 ドスはいい男だ。 まるでこの大地のように頼れる男だ。 ドスのフォースは、土のにおいがする。それは、戦士の纏う死の匂いとは真逆で 活力に満ちた命の匂いだ。 こんな男もいるのだなと、うれしく思ったのは記憶に新しい。 出会って僅かな日数しか経っていないが、まるで何年も行動を共にしたような思いがする。 彼のような人間がもう少しいたら、世界はまた違ったカタチをしていたかもしれない。 クリムトからは自分と同じ匂いを感じる。 それは、性癖がとかそういう俗な話ではなく。 かつて失われた愛、その喪失に苦しみ喘ぐ者へのシンパシーだ。 自分が心を鈍化させて平穏を保ったのに対し、彼は真っ向からその悲しみを受け止めたのだろう。 だからこそ、きっと誰よりも優しい。 人間としての深みがある。 愛のおしえ。それはマジナ人にとって馴染みがないものだ。 何度か彼の説法を聞いた。そして感銘を受けたものだ。 マジナ人の救い、それは救世主だった。 おしえとは、その救世主を愛というものに置き換えたものなのだとジョンは思った。 キリスト教がアリストテレスの考えを分析し、キリスト教に取り入れギリシャ文明を呑み込んだように。 ジョンもまたそのようにおしえを理解した。 素晴らしい考えだ。 彼は絶対に生かして返さなくてはならない。 彼こそは、人の世に放たれた光なのだから。 二ドラ。 抜け殻のようになっていた自分に、道を示した幼い雇い主。 感受性が豊かで、共感する力が人より強かったのだろう。 それは、見方によっては豊かな生活を送ってきた者の傲慢とも取れる。 だがジョンは違った。二ドラの姿に菩薩の影を見たのだ。 それは、クリムトと同じ光だったのかもしれない。 彼女の時折起こす思い付きのような善行に付き合わされ、それがどれほど 自分の心を穏やかにさせたか。 ろくに話もせず、ここまで来てしまったことをジョンは今になって悔やんだ。 お付きの女はまあ、特に語ることはない。 2022/4/3 ついに均衡が崩れた。 ジョンの極限の集中からくる認知の歪み、体感速度の遅延効果がきれたのだ。 世界が色づき、時の歯車が正常に動き出す。 もう、肉眼では鬼の動きを捉えられない。身内の警告ももう、対応できない以上は自分には過ぎた情報となった。 ジョンはいっそ目をつむって、フォースのみを見た。 筋肉の動きやかかとの向きを見なくても、体内を流れるフォースが、鬼の動きを知らせてくれる。 しかし、冷静に考えると何故死者にフォースが宿っているのだろうか。 負のフォースとは一体。 話がそれた。 ジョンは静かに時を待った。 フォースの流れが、次に来る致命の一撃が、突きであることを教えてくれる。 ジョンは目を見開いた。 鬼の踏み込み足が、雷鳴を思わせる破裂音を発生させる。 大腿がにわかに膨張し、生じた運動エネルギーが鬼を前へ加速させた。 ジョンの首を貫く気だ。 (……今だ!) 何かを悟ったのだろうか。 鬼が、突如急制動をかける。 構うものかと、ジョンは「声」を解放した。 それは先ほど仲間に向けて送ったテレパシーだった。 その精神感応波を、鬼に指向して叩き込む。 仲間に送った「声」の、何倍も大きく脳裏に響く声だ。 例えば耳元で130デシベルの音を急に流したような。 一般的に日常生活を送る中で、「静かだ」と感じるのは45デシベル以下だという。 100デシベルで、電車が通るときのガード下ぐらいのうるささらしい。 130デシベルともなれば、肉体的な苦痛を感じる限界値に達するという。 その騒音が、突如脳内に響き渡るとどうなるか。 鬼は硬直した。 それは戦場において、致命的な隙だ。 その隙を、しかしジョンは突けなかった。 ジョンもまた、動きを停めている。思考に空白が生まれた。 (……!) ジョンが硬直した原因もまた、「声」だった。 地声のでかさを利用した剣王イアハの裏技、「滅神咆哮」だ。 奇しくも、両者が決着をつけるために選んだ手段は「声」。 純粋な剣での闘争を捨てて選んだ裏技。 それは、大声でびっくりさせてその隙に乗じて一撃を入れるという初見殺しの必殺技だ。 数秒の硬直、先に復帰したのは鬼だった。 大上段からの一撃。 ジョンの左肩から右のわき腹へ抜ける致命の軌跡。 その軌跡通りに刃はジョンの肉体を滑り抜けた。 (……) 魔剣が鬼の首を斬り飛ばすところを、己の胴体と泣き別れ、倒れ伏す一瞬の間にジョンはしっかりと見届けた。 視界の端に、黒い煤と化す鬼の胴体が見える。 (…相討ちか) 生者が死者の地で死ぬと、どうなるのだろうか。 最期の瞬間、つまらないことを考えそうになり、ジョンは慌てて疑問を打ち消した。 目をつむる。 見苦しくならないように、努めて表情を穏やかにしようとして。 そこまでだった。 ジョンは死んだ。 今わの際に何か見たのだろうか、うっすらと微笑んでいるようにも見える。 魔剣から何かが失われ、ただの鋼に戻った。 ヨモツイクサの横陣を抜けた少し先に、赤いマントに身を包んだ初老くらいの男が立っていた。 その鮮やかな赤は、くたびれた風貌にはミスマッチで、とても似合っているとは言えない。 カーキ色なんかいいんじゃないかな、チェック柄の。なんてどうでもいいことをゲッツは思った。 目の前に、レギオンがいる。 それだけでゲッツは、何だか一気に疲れてしまった。 実際疲れていた。 何か言わなければと思うのだが、重い倦怠感が口を堅く噤ませる。 それは向こうも同じようだ。 ゲッツがレギオンと出会う前に抱えていた、愛憎の入り混じった激情はどこかへ行ってしまったようだった。 「……」 しばらく二人して見つめ合ってしまった。 2022/4/6 全体の7割くらい終わったかもしれない。 あとラストバトルくらいかな? よくわからないけどいよいよ終わらせられるのかと思い震えている。 火の魔将レギオン。 人の頃の名はボトム。 嵐の夜に消えた、ゲッツの父だ。 母は自分を愛さなかったが、父は違ったと、今でもゲッツは信じている。 ボトムが時折見せた、糸のようにか細い愛。 その愛に、幼いゲッツは縋りつくように生きていた。 日常的に発露する母のヒステリー。 夜中、父と二人で外に避難した。二人でとぼとぼと農道を歩いた。 二人の頭上に、ひと際輝く星があった。 星の名を父に尋ねたが、答えられなかったのをぼんやりと覚えている。 あれほど本を読んでいるのにと、ゲッツは面白く思ったものだ。 山で獣に襲われた日。 母は、自分よりも服の方が大事なようだった。 父はゲッツの体をしげしげと見ると、男がいつまでも泣くんじゃねえと怒った。 翌日、父は山へ行き、猪を1頭とってきた。 あの日感じた、胸中を満たすぬくもり。 しし肉の旨味。 その暖かさは、泥に塗れるゲッツを何度でも暖めた。 ここにきて、ゲッツはしぶしぶと己の感情を認めざるを得なかった。 父を愛していた。 きっと、今も。 「皆、ごめん。二人きりにしてくれ」 ゲッツの言葉に、ドスは難色を示したが、ゲッツの顔を見るとため息をついた。 「お前の中に俺達の未来があるって自覚はあるんだよな。その上で言ってるんなら、まあ」 苦笑しながらドスは言った。 「仕方ねえ。納得するまでやってみなよ」 クリムトは悟ったような顔をして、含蓄のあるようでないようなエールを送った。 「感じるままに。人は、パンのみにて生きる者ではないのだから」 「メメント・モリで会おう」 二人はそう言い残して走っていった。 その後ろ姿をゲッツは、ボトムと二人でぼんやり見送った。 二人の姿が見えなくなる。 しばらくして、父がぼそぼそと喋り始めた。 「昔何かの本で読んだ話なんだが」 「密林で、獣に育てられた人間のガキがいたそうだ」 「……」 「そのガキを、ある時坊さんが保護した」 「坊さんは、そのガキを人間に戻そうと大層努力したんだが……」 「だが、駄目だった。そのガキは結局、死ぬまで人間にはなれなかったそうだ」 父は黙った。 一体何を言いたいんだろう。 それにしても、なんだか考えさせられる話だ。 獣は、人にはなれないということだろうか。 「その本は、こうも書いていた」 「ヒトは、ただ生まれてきただけでは人にはなれないと」 「そこに、何かが加わらなければ、獣のままなのだと」 「……」 「…駄目だったんだ」 父は、くたびれた顔を歪めて言った。 「俺は、やはり人にはなれなかった」 「俺には、人のような情はない」 父は少し黙った。言うか言うまいか悩むようなそぶりを見せて結局言った。 「お前たちを、愛していなかった」 その言葉は、少なからず俺を落胆させた。 だが額面通りに受け取るほど、俺もガキではない。 なくなった。 ガリと旅したあのかけがえのない時間が、俺を成長させてくれたのだ。 何を言うのかとドキドキしていたが、何とも人間くさい悩みを聞かせてくれるものだ。 思わず笑った。 「何がおかしい」 父は目をむいている。 その顔が面白くて、また笑ってしまう。 父は頭をかいて困った顔をした。 駄目だ、もう止まらない。 笑いの発作に襲われて、ヒステリックに笑ってしまう。 まるで母みたいだ。 母から愛を感じたことはない。 あの母から言われたのなら俺は、ああそうかと納得しただろう。 だが、父は違う。 俺は愛されていた。 愛されていると信じることができた。 しばらく変なものを見るような顔で俺を見ていた父が、ため息を一つついた。 幾分肩の力が抜けたような感じだ。 「…座って話すか。そこなんかどうだ」 「いいね」 都合よく座りやすい岩があったのでそこに二人して座り込む。 ガリと牛角に行った時のことを思い出した。 なんだか遠い昔の事のように感じる。 「お前の腕を斬った」 「ああ、あれは痛かった」 灼熱を脊髄に突きこまれたかのようなショックと痛み。 その時の記憶がよみがえり、俺は冷静になることができた。 幻肢痛がちくりと脳を刺した。 不思議だ。死者の国でも痛みを感じる。 そもそも死者の国に生きた人間がいるなんて。 左手で、義手を撫でる。 不思議な金属で造られている、本物みたいな義手。 フェアリーのくれた宝物。 なんだかフェアリーの声が聞こえたような気がした。 その声に押されるように俺は胸襟を開くことにする。 「でも俺も、父さんの腹を斬り飛ばしたよ」 俺の、父さんという言葉に、父はぎくりと体を震わせた。 「よせ、俺は火の魔将レギオンだ。お前の父ボトムは嵐の夜に死んだんだ」 「なら、何でボトムの頃の話をするのさ」 「……」 もう俺達は気づいている。 あの頃のわだかまりを解消させるのが、お互いに必要なことなんだって。 その時こそ、俺の中の器が完成する。 その予感がある。 さあここからだぞ。 これが俺の、最後の戦いだ。