2022/7/2 ダックス125買ってバイク通勤しようかなと思ってたんだけど発売延期になっちゃってがっくりきた。 メロンちゃんと同じダックスなのに運命を感じるんだ。早く発売してほしい。 メロンちゃんのカラーの色と同じ赤色が欲しいな。 44万円は高いけどワイフに内緒でこつこつ貯めてきたお金があるんだ。 白城の大門を抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。ドスの前に告死鳥が舞い降りた。 告死鳥は胸骨を突き出して、遠くへ叫ぶように、 「アコードさあん、アコードさ」 ドスはガイアソードを背中から抜き放つと告死鳥を叩き潰す。 一手遅かった。 遠く小山ほどの丘陵からヨモツシコメが高速で這って来て、粉雪が盛大に舞う。雪の冷気が流れこんだ。ドスは思わず目を瞑った。 その隙に、大陸貝にまたがっていた娘がそっと地に降りた。 ゆっくり雪を踏んで来た娘は、襟巻で鼻の上まで包んでいた。 さらさらと銀髪が流れる。粉雪が娘の頭に散らばっている。雪明りに照らされてティアラのようだ。 全身を艶のない真っ黒な化学繊維のコートで身を包んでいる。夜の闇が人を象ったかのようで現実味がない。 寒いなとドスは娘を眺めて思った。その娘を見ていると体の芯から凍えていきそうな心持がする。 視線を外して、周囲を見渡した。クリムトがいない。雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。 「ドスさん、私です、御機嫌よろしゅうございます」 「ああ、アコードさんじゃないか。おでましかい。寒くなったよ」 「こんなところまでお世話さまですわ」 「こんなところ、寂しくて参るだろうよ」 「こう見えて色々賑やかですの。それにドスさんもここに加わりますのよ。よろしくお願いいたしますわ」 「よしてくれ。まだ元気で働けるよ。これからいそがしくなる。寒いところは苦手でね」 「厚着をすればよろしいわ」 「寒いと酒ばかり飲んじまうよ。それでごろごろぶっ倒れるのさ、風邪をひいてね」  アコードはくすくすと笑うと、ふと真顔になり声のトーンをひとつ落としてドスに問いかけた。 「ゲッツさんはどちらにいらっしゃるのかしら」 「……」 ドスの体から闘気が立ち昇る。 「まあ。いけませんわ」 アコードは目を細めた。 気温がさらに下がったように感じられる。夜の闇が深くなった。手足が痺れるようなプレッシャー。ドスは生唾を飲み込む。舌で唇をなめた。 意を決してアコードに話しかける。 「若者を守るのが年長者の務めだ。あんたは腐った水のにおいがする。あいつにゃ近寄らせねえ」 「それ、あなたの感想ですよね」 「それにドスさん。あなたでは無理ですわ。大地から遠く離れたここでは特にね」 ドスはガイアソードの柄を強く握りしめる。ガイアソードがじんわりと熱を放ってドスの想いに応えた。 ドスはにっこりと微笑むと、アコードを睨みつけた。 「生まれ来て死に行く。そんで大地に還るのが真っ当な生き方だ。それを歪めようってんなら俺が相手だ」 「ドスさ」 「俺こそはホモス最後の砦ッ大地の戦士ドス!推して参る!」 アコードの言葉をドスの大音声が遮った。アコードは不快気に眉を顰めると掌を空に掲げた。 銀の錫杖が虚空より生じ、アコードの右手に収まった。闇がいよいよはちきれそうなほどに膨張した。 「なんだろう。話を遮るのやめてもらっていいですか」 「大体考え方が古いと思います。頭アップデートしないと」 「PDCAサイクル鬼速で回してますか?嫌われる勇気はお持ちですの?エフォートレス思考はご存じ?」 「……」 「仕方ありませんね。不肖私めがお手伝いして差し上げます」 「この常夜の王アコードが」 夜が来る。 ドスは雄叫びを上げるとガイアソードを大上段に振り上げ、一気に振り下ろした。 「私に逆らう人、全員バカです」 かくして最後の戦いがひっそりとしめやかに始まった。 2022/7/10 この間安倍さんが殺されちゃったニュースを職場でいの一番に知って 慌てて安倍さん奈良で殺されたって!って言ったらみんなが、えー嘘―!とかいい反応してくれて 不謹慎だけどすごい気持ちよかった。インフルエンサーの気分を味わった。 安倍さん今までお疲れさまでした。ご冥福をお祈りします。 ガイアソードがアコードの体を打ち据える。アコードは一撃でひしゃげて物言わぬ肉塊になった。 「……!?」 おかしい。あっけなさすぎる。ドスは緊張を緩めることなく周囲を見回した。 異常はない。アコードだったものは今、雪面に赤黒い染みとなって広がっていく。 その時ドスの三半規管が遠く振動を捉えた。初めはかすかな振動。徐々に大きくなっていく。そしてドスは見た。丘陵から青白い巨人が立ち上がるのを。 全長8メートルほどの水の巨人。闇夜の中、ぼおっと青白く輝いて幻想的ですらある。常夜の王の化身であるヒトツメニュウドウだ。 所々凍結し、冷気を立ち昇らせている。再生怪人は弱いのがお約束だが果たして。 振動はやがて地鳴りを伴って大きくなり、その頃にはドスの目にも何が起きているのか理解できるようになっていた。 雪崩、それもスラブだ。ドスを呑み込もうとしている。 ドスは地のさとりを展開する。 雪崩を防ぐ岩壁を発生させようとして失敗した。  ―ここは常夜の国の最深部、私の胎内。ここで荒唐無稽な奇跡など起こさせませんよ − ということらしい。 ドスは慌ててガイアソードを地面に突きさし、刀身を伸張させた。 そのまま幅50メートル、全長300メートルほどの規模がある雪崩を棒高跳びの要領で回避すると、 ヒトツメニュウドウの頭部目掛けて縦回転しながら剣を振るった。 上手く説明できないが、グランディアの主人公ジャスティンの天空剣みたいな感じだ。 遠心力を得て膨大な運動エネルギーを乗せた超質量の鈍器がヒトツメニュウドウの頭部を一撃で粉砕、その勢いのまま叩き潰し、凍土を陥没させた。 勝負ありだ。やはり再生怪人は弱い。館モノのミステリが必ず最後に館を炎上させるようにこれは決まりきったことだ。 それでもドスは警戒を解かない。ドスの第六感がけたたましく警鐘を鳴らしている。これにはまだ何かがあると。  ―そのとおり。やらせてあげたんですよ ― 遠くアコードの声が響いた。  ―これで全ての魔将が消え、ワタシが目覚める ― ドスは足元が突如不安定なことに気づかされた。 自分の踏みしめているものが大地という確かなものではない。黒くうつろな、不定形のどろどろしたおぞましいものだと今さらながらに思い出した。 ここはアコードの胎内だという。ドスもそれは知っている。それがどうしようもないことも。 足場がなくては、人は立つこともできない。 ヒトツメニュウドウが裏返る。黒いどろどろしたもの。死の汚泥が銀世界を黒く染めていく。 ルコンが水の魔将と戦った時の焼き直しだ。違うのは、これから顕現するのが真の常夜の王というところだ。 ドスは身体から力が抜けていく感覚を覚えた。がちがちと歯が鳴り、全身はおこりにかかったように震えている。 雪の寒さによるものではない。これは恐怖だ。ドスはこれから起こる死よりも恐ろしい現象を恐れた。 視界に入れたくない。本能的な防衛反応によりドスは目を瞑った。 目を瞑ったことで恐怖はドスの中でより大きく先鋭化して育っていく。 暗黒の海に、ぽつんと一人取り残されたような恐怖が間断なくドスを襲った。 ドスは父を想った。母を想った。妻を想った。ルコン、クリムト、ジョン。仲間たちを想った。 ガイアソードがドスの掌を優しく暖める。ドスはその熱で正気を取り戻すとありったけの勇気を振り絞って戦闘態勢を取る。 ふと視線を感じ目を開く。 黒一色に塗り固められた空間にぽつんと一人ドスは立っていた。 しかしどういうわけか暗さを感じない。 遠くに青白く燃える巨大な塊がある。 その大きさは遠近感が狂っていないのであれば、軽く小山を超えるほどの大きさだろう。 心臓が早鐘のように鳴る。ドスは目を細めてその塊を見た。 よく見ると、その塊はヒトの形をしていた。 それも人間の赤子だ。 赤子の醜悪さを誇張したような顔をしている、にたにたと嗤っていてひどく不快な心持がした。 ブリッジをしているような姿勢でゆっくりとこちらに歩いてくる。 ドスは努めて呼吸を深くゆっくりと行った。 腹のあたりに何やら突起物が4つある。 いずれも人の上半身が赤子の体から生えているかのような形をしている。 一本角で赤く輝く片刃の剣を持った鋭い目の男。 浅黒い肌、黄金の仮面をつけ、手に葦を束ねた杖を持つ美しい女。 巨大な二本角、両手に手斧を持つひげ面の男。 銀色の長い髪をたなびかせる、アコードに似た乙女。 それらはお互いに背を向け円を描くように四方に睨みをきかせていた。 それらからは何の意思も感じない。赤子の付属物のようにドスには見えた。 (いや…これは……?) その時ドスは気づいた。 赤子の内を何かが渦巻いている。ガイアソードを通じてその超常の流れが見えた。 「……は?」 ドスは凍り付いた。 2022/7/23 今さらながらに流行りのオトワッカ見て最低すぎて笑った。 FF10は序盤の笑顔の練習で憤怒のあまりディスクをたたき割ってしまったんで ストーリー途中までしか知らないからオトワッカ見てなんか損した気分になった。 ちゃんと最後までやっておけばよかった。 まさかアーロンさんもアルペドじゃないだろうなとかティーダの〇ンボ気持ちよすぎだろとかリアルで見たかった。 あとトップガンマーヴェリック見たけどこっちは控えめに言って最高だった。 第五世代機って空中で静止できるんだ。あれでミサイル躱すシーン見て痺れた。すごすぎる。 一方その頃、クリムトは不思議な場所にいた。 そこは一面真っ白だった。 壁はツルツルと光沢があり、触ると柔らかく、指が壁にめり込んだ。 いかなる物質で造られているのだろうか。クリムトには想像もつかなかった。 アルコールの匂いと空気の流れる音。白色の照明が室内を明るく照らしている。 その部屋の片隅に白いカーテンレールで覆われた空間があった。 そこから幼子が声を殺して泣いている声が聞こえる。 なぜ幼子だと思ったのだろうか。クリムトは自分でも不思議に思ったが、その直感を大事にしようと考えた。 感じるままに、クリムトはその空間に入っていく。 カーテンを開くと、中央にシングルサイズのベッドが置かれ、その上に白く丸まったシーツが乗っていた。 シーツの中に、きっといるのだろうとクリムトは思った。確信にも似た予感がある。 クリムトはシーツの中にいる幼子に声をかけた。 「チャオ!」 びくりとシーツが震える。鼻をすする音。か細いソプラノの声が聞こえた。 「セラピストはいらない。だって私は間違ってないんだから。ピーキーは」 少し間があく。唸り声。やがて声をわななかせながら彼は叫んだ。 「ただの豚じゃない。なかったんだから。それを、それをぉおお」 3度甲高い音が規則的に鳴る。声の主は深呼吸をして、小声で喋った。 「……ピーキーは、もういない。みんなが食べちゃった……」 静寂と寂寥が白い部屋を満たす。 クリムトは胸が締め付けられる思いがした。この子供はひどく傷ついている。一人で立ち上がれずにもがいている。 降ってわいたであろう理不尽によってこころをぐちゃぐちゃにされているのだ。助けたいと、クリムトは思った。 脳裏に幼き日の自分がよぎる。愛への渇望と目覚め。誰かに助けてもらいたかった日々。報われることのなかった思い。いつも日陰にいた。 だからこそ助けるのだ。その痛みを知るからこそ、手を差し伸べるのだ。そうしなければならないとクリムトは思った。 その時脳裏に聖アコールのことが。仲間に語った豚の禁忌の話が。電流のように駆け巡った。 クリムトは、あっと叫びそうになった。まさかそんなことがあるだろうか。だが直感が、クリムトの気付きを肯定している。 そしてクリムトのこころはそれを受け止め始めていた。 激しい感情を受け流し、6秒後の平静を取り戻すとクリムトは彼を刺激しないようにゆっくりと歩き、ベッドの端に腰を下ろすと語り掛けた。 「僕の名前はクリムト。セラピストではないけれど、彼らと同じことはできると思っている。たとえば」 「大切な友達を失った苦しみ、それを乗り越えるためにどうすればいいのか、とか」 びくりとシーツが震えた。 「……忘れろっていうの。表で遊んでるみんなみたいに?」 冷たい声。その声音の裏に、激しい憎しみと少しばかりの悲しみをクリムトは感じとった。 「忘れるのとは違う。こころの奥に……、大事なものをしまうところに飾るんだ。忘れないように」 「僕はそうしてる。時々そこから取り出して、泣いたり笑ったりする。みんなが寝静まった夜なんかにね」 「そんな器用なこと、できない。今も頭の中がわーって叫びたくなるくらいいっぱいなの」 「そうしたら、また大人しくなる薬を打たれる。そして一日中ぼーっとしてるの。何にも感じずにね」 「でも、その方がいいのかも。ずっと考えてしまうから。みんながピーキーを食べちゃったこととか」 突如シーツがめくりあがった。銀の髪が流れる。 ああ、やはりなとクリムトは思った。 上半身を起こした子供が碧眼に涙をたたえてじっとクリムトを見て、ぎょっとした顔をした。 「わっセラピストのお兄さん、その恰好やばくない!?」 「この格好?僕の宗派の由緒正しい正装なんだけどな」 「何その邪教!?1冊3千万で本とか売ってそう!」 3度甲高い音が規則的に鳴る。これで2回目だ。クリムトは何となくこの音は 彼の感情が高ぶった時に鳴るのではないかと思った。 そしてそれが続くようであれば、おとなしくなる薬が打たれる。クリムトは頭を振った。 何てことだ。この部屋を作った者は頭がいかれている。幼子が激情に駆られるのは当たり前のことだ。 情操教育にしても行き過ぎている。教えはどうなってんだ教えは。 「初顔合わせだね。改めて僕の名前はクリムト。君は?」 「……アコード。ねぇクリムト、私たちには信教の自由があるけど、その、あなたの信じる教えはきっと、その……」 「控えめに言って、いかれてると思う」 2022/7/29 昔ツイッターやってたんだけど不思議なもんで やってるうちにどんどん自分をよく見せたいマウントを取りたいという欲が大きくなって このままだとよくないと思ってやめたんだ。 人間はマウントを取らないと生きていけない生き物なんだろう。 今もこの欲と戦っているんだウオオオオオオオ! 今日は勝てた。理性の勝利だ。 始めこそクリムトのエキセントリックな格好に度肝を抜かれたアコードだったが 時間が経つにつれ、そういうものだと受け入れ、ぽつぽつと話ができるようになった。 エキセントリックすぎて、毒気を抜かれたのかもしれない。 自然話の流れは、クリムトの所属する愛の国の宗旨についてになる。 「すべての人は神を探し求めている。絶対の、永遠でできているものを探し求めている」 「でも僕達が説くのは、神の教えではない。「愛」の教えなんだよアコード」 クリムトは弁舌滑らかに、愛の国の教えとは何なのかアコードに啓蒙していく。 アコードは、見た目の年齢に反して驚くほど見識が深かった。 クリムトの言葉に自然と熱がこもる。大人が子供に話すような熱量ではない。その様子を、アコードはじっと見つめている。 「正しく生きれば死後の安息を約束されるといった類のものではなく。槍と弓矢で地上の楽園を創るといったものでもない」 「僕たちのドグマの芯。それは愛だ」 「愛なんだ。アコード。肝心なことは赦すことだ。弱い者を思いやるということだ。今、ここで僕たちが分かち合うということなんだ」 「新宗教なんかでよくあるやつだね。母体はキリスト教系かな?」 「キリスト教?」 「すっとぼけてるの?クリムトの業界じゃ最大手のカルトなのに」 アコードは眉をしかめて、いぶかりながらもクリムトに説明を始めた。 「辺境惑星で生まれたナザレのイエスが興した宗教だよ」 「イエスは様々な奇跡を起こして神の国の福音を説き、罪にまみれた人間を救済するために自ら処刑された神の子なんだって」 「特定の民族や人種、身分に限定されないすべての人に開かれた宗教であることを売り文句に、門徒を広げているカルトさ」 「彼らが勧誘する時によく使う文言らしいね。愛だのなんだのって」 アコードの揶揄するような視線にクリムトは苦笑する。 手をふって自分は違うぞと意思表示をすると、会話を続けた。 「その、キリスト教というのは知らないけれど、似たような教えなんだね。でも僕は思うんだ」 「人にとって大事なことはそう多くないって。だってそうだろう。人間の普遍的な願いなんて」 「気持ちよく生きる……善の中にあって、心も体も充足する。ただそれだけだと思うんだ」 クリムトはアコードを見た。 否定も肯定もせず、じっとクリムトの目をのぞきこんでいる。 「それを助けるのが宗教で、神という概念なんだと僕は思う」 「神ならいるよ。この銀河の中心に座する神なる帝が」 アコードの物言いに、クリムトはにっこりと微笑んで答えた。 「僕の言う神とは、人格を持ち俗世と関わる、超常の力を持った者ではないんだ、アコード」 「かといって人間が、理性を総動員して創り上げた哲学上の神でも、民族をまとめるために創り上げた神でもない」 「理想の源泉とでも言うのかな。そう、源泉だ。この言葉が一番しっくりくるね。それは、目に見えるもの、手で触れられるものではないんだ」 「尽きることのない理想の源泉。それが僕の考える神という概念だ」 「神帝がいるにも関わらず、君たちの世界に宗教や信教の自由があることが僕の考えを補強する」 「……」 「ならば僕は神という存在を、こう言い換えてもいいと思っている」 「愛と」 アコードが鼻で笑う。その目は、結局神を愛に置き換えただけの既存の宗教に乗っかったカルトじゃないかと言いたげだ。 クリムトは微笑んだ。肝心なのはそこではないのだと同じく目で訴え返す。一拍置いて、クリムトは語りだした。 「僕たちの信じる愛の教えは、大昔、一人のはぐれ者が創ったものなんだ」 「はぐれ者?」 「そう。彼は、性的マイノリティだった」 「……」 「世は乱れていて、非生産的な行為は少しも認められず、人々は民族ごとに結束して独自の神を祀り、血を繋いでいる時代」 「そこにマイノリティが入り込む余地はない。彼は共同体からたたき出された漂泊の旅人だったんだ」 「だからかもしれない。彼は、神に縋るのではなく、人のこころに縋った。こころの奥底から湧いてくる愛に縋ったんだ」 「教えは、そうした漂泊の日々から生まれて、明文化されていったものなんだよ」 「僕たちは彼を聖者と呼ぶけど、彼は奇跡の力なんて持たなかったし、最後まで「神の子」なんてカテゴリに自分を置かせなかった」 「人の子として生まれ、マイノリティとして生き、人として死んだ」 クリムトは語る。 彼は、人民を統治する支配階級の出ではない。地上に楽園を創造するだけの武装勢力を束ねる将軍でもない。 いずこからふらっと現れた、ただ、性的マイノリティなだけの男だと。 だからこそ、彼の教えは多くの人の心を震わせた。 打ちのめされ痛みを知る者だからこそ、誰よりも弱者の気持ちがわかる。現に彼はわかったし優しく迎え入れもした。 世俗の風習や常識に、民族に、性差に打ちのめされた者たちが、日陰を生きるはぐれ者たちが彼のもとに集まるのは当然のことだった。 集団は徐々に力を持ち、支配者も無視できなくなっていく。幾度も迫害を受け、多くの死者が生まれた。 「だけど、本当に良いものは決して滅びないんだ。アコード、これは重要なことだよ」 「決して滅びはしないんだ。教えは幾度も迫害されて、大勢死者を出して、でもついにみんなに受け入れられた」 「決して滅びない……」 「君の愛のようにね」 アコードは下を向いた。 唇を突きだしており、冷静に見るとあひる口みたいになっていて滑稽だ。 「君は優しい子だ。ちょっと話しただけの間にも、それがわかった。きっとほかの子よりも情が深いんだね」 「だから、勘違いしないでほしいんだ。他の子が、ピーキーの死を何とも思ってないわけじゃない」 「彼らは彼らなりに苦しんでいる。きっと今も。ただ、その気持ちに君のように真正面からぶつかってないだけだ」 「でも、でもみんなは食べた。ピーキーの肉を……た、食べたんだ!」 アコードは叫んだ。 警告音が鳴る。それでもアコードは、深呼吸をすることもないし、黙らなかった。 大粒の涙を滴らせながら、語り続ける。 「せ、先生は命を食べて供養するんだって。ひ、人は命を食べないと生きていけないから。その痛みを知らないとダメだって……」 「ピーキーは、私達の顔を見分けられたんだ。よく世話してる子、餌をくれる子に近寄って……触ると暖かかった……私にも」 「妹ができたみたいで、うれしかった」 「知性がある、あったんだ。な、ならピーキーは。……し、死ぬ前に、何を思ったんだろう!」 そこまで言うとわあわあ泣き始めた。 小さい体に収まりきらない大きな悲しみにぶるぶると震え、打ちひしがれている。 クリムトは胸がつぶれる思いがした。 「命を食べないと生きていけないなら、もう何も口にしたくない。生きることがこんなに苦しいのなら、もう」 そこまでだった。 急にアコードの体から力がくたりと抜ける。起こしていた上半身が、再びベッドに沈んだ。 クリムトは驚いて、アコードの手を取った。脈はある。だがあれほど激昂していたにしては平常だ。 何度か呼びかけるも応答はない。 遠くを見ているような目。口を半開きにしてぼんやりとしている。 アコードの言っていた大人しくなる薬が、自分の気づかぬ内に打たれたのだろうかとクリムトは考えた。 ふつふつと怒りが湧き上がってくるのをクリムトは感じた。 この施設を作った人間や先生と呼ばれる奴は、掛け値なしに馬鹿だ。これは虐待だ。こんなものは教育ではない。 クリムトは立ち上がって、ドアに向かって歩き出した。この施設の責任者と会って、意義を問う。 そう思った瞬間だった。 緞帳が降りるかのようにクリムトは、今いた空間から切り離された。 2022/7/31 ゴールが近いのを感じる。 そろそろサライ流すかってぐらいのところまできた気がする。 新都社さん今までありがとう。 僕も安倍さんのように最後まで駆けて駆け駆け抜けようと思います。 2022/8/1 加筆。 轟音。 メメントモリ内部に突入するため大門を潜ろうとしたルコン達を黒い泥津波が襲った。 咄嗟に風の膜を展開し、ジョン達を引き入れると津波をやり過ごす。やり過ごそうとした。 数十秒経った。波濤の如く黒い汚泥が流れてくる。数分経った。周囲はもう黒一色だ。風膜の外をものすごい勢いで何かが流れているのを感じる。 どれだけ時間が経っただろうか。いつの頃からか外の音が消えた。聞こえるのは自分の息遣いと鼓動の音。 周囲は相変わらず黒一色だ。であるのにも関わらず暗くない。そして腹の底に響くようなプレッシャー。 どうも風の膜を張り続けているが出力が不安定だ。ルコンは違和感を覚え始めた。 「これは、降りてくるときのヘドロの海に似ているが……?」 ジョンが独り言のように呟いた。 「本来の姿に戻ろうとしておるのよ。上のモニュメントや虚栄の白城ではない、常夜の国本来の姿に」 トゥルーマンは相変わらず訳知り顔で物を言う。だが今はその余裕が心強い。 「風の膜は解除しておけ。ここは、そういう空間なのだ。膜を張るだけエネルギーの無駄であろう」 トゥルーマンの提案に、忌避感を覚えたルコンは言った。 「この黒いの、死でできてるんだろ。触れて大丈夫なのか?」 「何を今さら。そなたらは美食の壁を潜った時にすでに仮死状態になっておるのだぞ」 「えっ」 「そのためのゴッデス。強烈な生のエネルギーが体の表面をコーティングしておるのよ。だから耐えられるのだ」 それは知らなかった。ルコンは思わず自分の心臓に右手を当てた。一定のリズムで刻まれる鼓動が心を落ち着かせる。 ジョンが例によって周囲のフォースの流れを見た。こういう時本当に便利だ。 「ドスのフォースを捉えた……近いような遠いような……、かなり弱っているように感じる」 「行こう!」 風の膜を解除する。ルコンのが地面を踏みしめた。地面がある。不思議な感覚だった。 ルコンは、とりあえずジョンの言う方向へと駆けだした。ここは時間の感覚がおかしい。大分長いこと走ったような、たいして走っていないような。 ルコンは走っているうちに、自分たちが発した声以外に、周囲に何の物音もしないことに再び気づいた。 (やはり音がしない……) 結構な勢いで走っているのに。不思議な感覚だった。時折漏れるルコンの呼吸と血液が循環する音、心臓の鼓動。 これから世界の命運が決まる決戦が待っているというのに、なんだかルコンは気持ちがまったりしてくるのを感じた。 これだけ暗いのに、明るい。閉塞感も感じない。 死者は、輪廻の大渦に飛び込むまでの間、この空間で過ごすのだろうか。だとしたら。ルコンは思った。 (……案外、悪くないのかもな) ここには不思議な安らぎがあった。 そんな時間の流れとあやふやな距離を経てしばらく。ルコン達は遠くに青白く燃え盛るものを見た。 (これは、かなりでかい……?) 遠近感が少し狂っているが、この距離であの大きさなら燃え盛る青白いものは下手をすると山のような大きさかもしれない。 徐々に輪郭が見えてきた。青白い不細工な赤子。へその辺りから4つの突起物が生えている。 皆様ご存じ常夜の王だ。 4つの突起物はせわしなく動いている。近づくにつれてその突起物が巨人たちの上半身であることがわかった。 赤く輝く剣を持つ巨人が縦横無尽に剣を振るう。あれはルコンもたまに使う剣技、キープアウ刀(この単語入力するの恥ずかしい……)だ。 刃の線を幾重にも束ねて壁となす必殺剣がある一点に向かって放っている。おそらくその先にドスがいるのだ。 ルコンは全速力で駆け始めた。地面を蹴る足が重い。何かに追われる夢を見るときのような、焦っても焦っても一向に進めない感覚に似ている。 もどかしさを覚えてルコンは唸った。 直後ドスのいると思われる地点から巨大な石剣が数えきれないほどの残像を残して突き出される。 あれはドスの必殺技、ミリオンスタッブだ。 刃の壁が2つ重なった。その衝撃の波が、音もなくルコン達の位置にまで到達する。3人は吹き飛ばされそうになるのを耐える。 また走り出した。 その時4体の巨人のひとつが、こちらを見た。大きな二本角を持つひげ面の鬼だ。その鬼の周囲に巨大な戦斧が2つ生じ、飛来した。 こちらから向かうのは嫌気がさすくらいもどかしいのに、あちらから来るものはまるで雷光の速さだ。 (レギオンのアックスフィーバー!) ルコンは風のさとりを展開しようとして、その奇跡の力が直前で消失する感覚に鳥肌がたった。 光の速さにも似た反射で、ルコンはミラージュソードを連続で射出、大戦斧の軌道をかろうじてずらす。 「さとりが消されたぞ!それに上手くフォースが練れない!」 「この空間、時間から何からねじ曲がってやがるんだ。上と同じだ」 「どうやら地の利は向こうにあるようだな」 ジョンの分析にトゥルーマンが落ち着き払った、いつもの超然とした物言いで続く。 ルコンは焦って叫んだ。 「言ってる場合か。爺さん何とかできないのかよ!」 「ワシから言えることはひとつだ」 「フォースだけに頼るな。理力を使うがいい。ちなみにワシは理力を使えんぞ」 「とほほ……。無限のフォースを手に入れても結局これかよ」 「理力なら俺にも心得がある。少しはお役に立てるかな」 ジョンが笑いながら言う。笑ってられる状況じゃねえから!ルコンはまた叫びたくなった。 会話しながらも3人は落下する斧の下を駆け抜ける。 突起物のひとつ、黄金の仮面を被った女巨人が手に持った杖を振るった。 2022/8/4 この間ドラゴンボール超スーパーヒーロー見てきた。 オレンジピッコロ、悟飯ビースト。悟飯魔貫光殺法が良かったです。 後ベジータが悟空に勝ったところを幕間で終わらせるのはどうかと思った。 所々ギャグシーンがあったんだけど子供が無反応で周りの人達も何の反応もなくて逆に面白かった。 ルコンの体の動きが鈍くなる。足が空を切るような感覚。目がかすむ。 10代の健康的な身体から、初老の、毎回会社の健康診断で二次検査を申し渡されるような身体になったようだ。 大戦斧が、刃の嵐が、死せる水弾の連射がルコン達に向かって放たれる。 まずい、ルコンは次々とミラージュソードを展開し、防壁にしようとした。 突如、明後日の咆哮へ放たれる敵の波状攻撃。ルコンが驚いて常夜の王を見た。 巨大な石剣が常夜の王を下段から斬り上げて常夜の王が態勢を崩していた。ドスが援護してくれたのだ。 流れ弾をルコンのミラージュソードが処理していく。ドスの姿がようやく豆粒のような大きさで見え始めた。 距離がなかなか縮まらない。もどかしい。ルコンの焦燥に、トゥルーマンが答えた。 「乗れ。ワシの背に乗る栄誉をくれてやる」 トゥルーマンは、人の形を捨てて、本来のガス状の体に戻ると、馬に似た体、首から上を出来の悪いヒトガタに置き換えたような 気持ちの悪い造形に己を変化させた。 ルコンは無言で飛び乗る。ジョンも飛びついた。 トゥルーマンの背から伝わるひんやりとした、弾力のある閑職。 「振り落とされるなよ」 突如凄まじいGがルコンを襲った。ジェット戦闘機もかくやの急激な加圧に、視界が赤く染まっていく。 駆け足とは違う。徐々に、だが確実に常夜の王に肉薄していく。 4体の巨人たちが再びこちらに攻撃を向けようとそれぞれの獲物を掲げた。 ルコンは迎撃のため再びミラージュソードを展開しようとする。 (以前やったセッションを覚えてるか。俺は、前段技分くらいならフォースを練れそうだ) ジョンのテレパシーでの呼びかけにルコンははっとした。常夜の王を見据えつつも、ルコンは大声でジョンに応えた。 「タイミングを合わせよう!あの時のように!!」 (ああ。俺がお前に合わせる) あの時のように。ルコンのミラージュソードが疾風を纏った。 「疾風剣」 青いオーラを纏った剣風が射出された。 「雷迅剣」 直後、紫電が恐るべき速さでその後を追う。 青い風と紫電が合わさる。青と紫が合わさって、黒に染まる。その漆黒の中から飛燕が生じた。 全てを切り裂く刃翼が、修羅の豪剣を、比類なき軍略家の大戦斧を、大王の魔道を、常夜の王の水弾をことごとく切り払う。 飛燕はついに常夜の王まで迫ったが、醜い赤子は四肢に力を漲らせたかと思うと、跳躍して飛燕を躱した。 躱した。 (どうも、不死身の化物ってわけでもなさそうだ) ルコンの内心を、ジョンが代弁した。 (そうだ。奴は躱したんだ。それは、食らえば拙いと判断したということだ) ルコンは意気を上げる。常夜の王は殺せる。そう強く思い込んだ。 ドスと合流するのと、常夜の王が着地するのはほぼ同時だった。 「悪いな。先に片付けておいてやろうと思ったんだが」 ドスは全身を死せる水で濡らし、切り傷や打ち身でボロボロだったが目は輝いており、軽口を叩く余裕もあった。 ルコンは思わずドスを抱きしめた。ドスはにやりと笑って言った。 「悪いな。俺にはカミさんがいるんだ」 「よく無事で!」 「自称ホモス最後の砦が、そう簡単に落ちるわけにはいかないからな」 ドスのごつごつと筋張った大きな手が、ルコンの背中を優しくたたく。 (生きている……!) その暖かさがうれしくて、ルコンは思わず涙が出そうになった。 ―それ以上私のものに触るなッ!!― 突如常夜の王の絶叫が割って入る。 暗黒のしじまに木霊するその言葉の意味にルコンは顔を顰めて言った。 「何言ってだこいつ」 赤子が醜悪な顔をさらに歪めた。苛立たし気に、手足をばたつかせる。 ―ゲッツは私のものだ。私の器、私の片翼。触るな、穢れるううゥ― (こいつ、マジで何なの?) 怒りを通り越して、ゾッとする思いだった。ルコンもはじめはアコードに友情を感じていた。しかし裏切られ、仲間を殺された。 だがそれでもルコンは父を、仲間を殺した父を最後の最後で赦すことはできた。アコードと父、何が違うというのか。 はっきりと言語化してこなかったが、ルコンはその正体を、男に性愛の対象にされる嫌悪感から来るものかとぼんやり思っていた。 しかし違った。アコードの性別が変わってもその嫌悪感はまるで薄れなかったのだ。 ここにきて、ルコンはついにこの感情の謎を解き明かした。 ―ゲッツ、私とともに新世界を創ろう。お前の器と私の知恵があれば、あの日の続きが見られる― ―私はずっと、あの日の影を追って生きてきた。長い長い時がたって、それでもなお曇らない― ―黄金に輝く、永遠の今を― 「ごめん。生理的に無理」