2023/4/19 ゲーム実況者のしんすけさんが好きなんだけど 最近河原で顔出し実況するようになってそれがとても面白い。 アラフォーおじさんが河原でベーコン焼こうとしてとんびに盗まれる奇跡のシーンとか ほんと笑った。 気難しいイメージあったんだけど、なんか優しい顔でうっすら微笑んでて菩薩様みたい。 こんなのもっと好きになってまうよ。 ファイナルフォース(打ち切り)  白一色に塗りつぶされた世界が、ゆっくりと色を取り戻していく。  やがて世界は白から黄昏に色を移した。    あかね色に染まる大地に、一体の巨人がゆっくりと身を倒していく。  死で象られた偽りの大地は、音もなく巨人の体をその臥所に迎えた。   水死体を思わせる膨れ上がった体から、無数の魂が抜け出て天空へと。  まるで花火のように打ちあがっていくのをルコン達は言葉もなく見送る。  一体、どれほどの魂を内包していたのだろうか。  気づけば天空に何か巨大な機構が渦巻いているのが見えた。  いくつもの魂が、その大渦へ吸い込まれるようにして消えていく。    「輪廻の大渦だ。常世は本来の機能を取り戻したんだよ」  隣に立つステルメンが独り言のように呟いた。  ルコンは大渦を、無数の魂を無言で眺める。 東の空から夜の帳が急速に降り始める。  常夜の国から、常世に戻りつつあるのだ。  それはアコードの終焉を意味していた。  黒に塗りつぶされていく空を、魂たちが星となって彩る。    (あの中に、いるんだろうか。母が、弟も……。)  もし、いるとして。  会いたくないな、とルコンは思った。  だが、思い通りにならないのが人生というもので。  はたして彼女たちは、天空から地上のルコンの下へやってくる。ルコンにはそれがわかった。  3つの魂が、人の輪郭を得て徐々にあの頃の、生前の姿を象っていく。  母だ。  自分と瓜二つの容貌。  ああ、やはりこの女の血が流れているのだなとルコンは思った。  ステルメンが少し離れたところに歩いていく。その背中をルコンは目で追って、しかし 覚悟を決めると母たちに向き直った。  歩み寄ってくる3人を、穏やかでない心境で待ち受ける。   以下問答方式  ・応答者ルコン(以下ルという。)   ・通話者ルコンの母(以下母という。)  ・ルコンの異父弟名前忘れたけど多分ルッツ(以下ルという。)  ・養父(以下養という。)  ・( )←補足説明。    母:久しぶり……になるのかしら。ここは何もかもが曖昧で。でも。    母:わかるわ。お前のことが。    母:大きくなった、私に似て……。    ル:……。    養:俺は向こうで待っているよ。(その場を離れる。ステルメンと何やら会話を始める。)    ル:この人、お兄ちゃん?    母:ええそうよルッツ。    ル:お兄ちゃん!(ルコンの腰の辺りに抱き着く。その背の低さにルコンは過ぎた年月を思って目を潤ませる)    ル:ルッツ。ごめんな。俺……。(言葉に詰まる。見かねた母が助け舟を出す。)    母:この子、あの時のことを覚えていないの。とても怖かったみたいで。    母:でも、その方がいい。これでよかったのよ。    ル:……。    ル:また一緒に暮らせるんでしょ。ここで、また昔みたいに。    ル:……。    母:……。    ル:俺、やらなきゃいけないことがあるんだ。だから。    ル:ごめん。俺、一緒にはいけないよ。ごめんな。ごめん。ごめんよ。    ル:どうしてえ?一緒にさ。昔みたいに……。    母:お兄ちゃんは仕事があるのよ。一緒に暮らせないの。私たちももう、ここを離れるのよ。    ル:えーっ!やだあ。    母:皆一緒にはいられないのよ。いつか独り立ちして、離れて行くのよ。私たち。    ル:……。(ぐずる弟。あやす母。突然父の下へ駆けていく弟。)    母:私たちも、あすこへ行くわ。(輪廻の大渦を見上げる。)    ル:……。    母:あなた達の戦いを見ていた。あの怪物を通じて。あの男の、あなた達の想いも。    ル:……。    母:あの男との関係は打算だった。私は貧しい、何も持たない人間で、だからあの男の持つ富と力に引き寄せられて。    ル:いいよ。その話は。俺は、父さんも。もう過ぎた話だ。俺達は乗り越えた。終わったんだ。    ル:あんたは俺を愛さなかった。だけど、もういいんだ。もう過ぎてしまったんだから。    母:そうなの。……強くなったね。私が、言えたことじゃないけど。    母:ごめんね。幸せになって。    ル:……。(目を閉じる。むっつりと黙り込む。)    母:じゃあね。(背中を向けて歩き出す。)    ル:……。    ル:……許す。    母:えっ。    ル:あんたを許す。父さんの分も。俺が代わりに。だから、さよなら母さん。    母:……。(微笑む。小さく会釈して去っていく。) 以上問答方式。  3人が去っていく。  人の形を失い、天に昇り、沢山の魂とない交ぜになってどれが彼女達だったのかわからなくなり、 大渦に吸い込まれるように消えていく。  ルコンはそれを見送る。それこそが生者の務めだからだ。  いつの間にか傍にいたステルメンが、ルコンの肩をそっと叩いた。  「私もそろそろ行くよ。最後に君と一緒に戦えて、楽しかった。こんなこと言ったら不謹慎かな?」  ステルメンの言葉がさざ波のように心に押し寄せる。ルコンはその波の意外な大きさに顔を顰めた。  思えば。  父。母。シリウス。  皆自分から離れて行った。ステルメンだけが。  ステルメンだけがルコンの傍にいてくれたのだ。  それに思い至った時、さざ波は大波へと変わった。  その巨大な感情をどうにか呑み込んで、ルコンは別れを告げる。  「……先生。先生のおかげです。俺が、今日まで生きてこられたのは……」  「先生が俺を育ててくれたから」  「恥ずかしくて言えなかったけど……」  「ずっと、父のように思っていました」   ルコンが言葉をふり絞り、ステルメンは微笑む。目じりには涙が浮かんでいた。  ステルメンはかぶりを振った。  それからゆっくり息を吐く。   「……いつか君の夢枕に立ったことがあったっけ。伝えたいことはすべてあの時に言った」  だから、これ以上は蛇足というものなんだがとステルメンは続ける。  ルコンの目を見つめてふっと微笑む。  「さらばだ。息子よ」    ステルメンはそう言い残して輪廻の大渦に飛び込んでいった。  ルコンは静かにそれを見送ると、ゆっくりと上を向いて歩き出した。  まだ別れを告げなくてはいけない人達がいる。   一緒に肩を戦った中隊の仲間と抱き合った。  肩を並べて戦い、同じ釜の飯を食い、酒を飲み、星を見た仲間。  彼らの中に交じって、ルコンは初めて等身大の自分を見つけたのだ。  いつまでもあの時間が続けばいいと思った、過ぎていったかけがえのない時間。  ルコンは彼らに別れを告げた。  中年の傭兵と再開し、剣を返した。  理力の、マロウドの剣。傭兵は剣を大事そうに抱えるとにやりと笑って去って行く。  ルコンは傭兵の背中に向かって頭を下げて別れを告げた。  顔見知りも、そうでない者も、死者たちはルコンを見つけると声をかけてくる。  祝福。新世界への希望と陳情。  時に、問答になることもあった。気難しそうな中年がルコンに問う。  「新世界の神として君臨し、何を為すのか」  ルコンは笑って返す。    「何も」  中年は虚を突かれた顔をした。  しかしすぐにはっと何かに気づいた顔をして、何やらぶつぶつと呟く。  「何もしない? ……つまり、象徴としての権威。立憲君主となるか。君臨すれども統治せずと言うわけか」  「人を、民衆を信じるというわけだ。愚かな。民衆は怠惰な生物だ。貪るだけ貪って糞しか産み出さぬ」  「だが面白い。励みが出来たわ。次か、その次か、機会が再び来るかはわからぬが、また人に生まれることがあったとして」  「その時はまた知に親しみ、その知をもってそなたの治世を支えるとしよう」  中年は何やら勝手に納得して勝手に語りだし、勝手に消えていった。  そんな感じでいくつもの別れを繰り返しながら歩く。  常夜の王から、打ちあがる魂は今も尽きることがない。  アコードは一体どれほどの魂を喰ったのだろうか。  曖昧な時間の流れ。それでもそこそこの時間が経ったと感じ出した時、 ルコンはドスと、クリムトと、ジョンと同時に再会した。  何という偶然だろうか。  目と目が合い、一気に感情が爆発する。4人は抱き合った。  そして皆一様にはっとしてジョンを見る。  ジョンの身体は冷たかった。その冷たさは、誰もが一度は味わったものだったから。  「ジョン、おめえ!」  ドスが声を裏返らせて、ジョンの肩を掴んだ。  そしてその冷たさと感触に全てを察してがくりと肩を落とす。  「……俺はこんな大事なことに気づけねえで」  クリムトは悲し気に眉尻を下げる。その眼は、また見送らなければならないのかという悲しみを宿していた。  ルコンは、ああやっぱりそうだったのかと思った。  そしてその事実をしっかりと受けとめる。  愛がある。悲しみもある。しかし、不思議とこころは穏やかだった。  死は終わりではなく、新たな始まりなのだと、こころから理解できたからだ。  ジョンはずっと苦しんでいた。  だが、この地でジョンは何かを納得した。その得心が、彼の顔に刻まれた険を消し去り、足取りを軽いものとした。  ここで救いを得たのだ。なら悲しむよりは。  ジョンは3人に笑いかける。  「ほんのちょっとの間だったが、楽しかったよ。まるで……、ガキの頃からずっと一緒にいたような」 2023/4/22 ちょこちょこ加筆。 どのページか忘れたけど無想剣生プラス飛燕剣のところに ベナレノをとりあえず追加。ここで出しとかないと話がおかしくなるから。 あとでもうちょっと足すかも。面倒だしやっぱいいや。 5/1 さらに加筆。    言葉に詰まる。伝えたいことがあるのだが、うまく言語化できない。そんな沈黙。  クリムトがそれを引き継いだ。  「何だかわかる気がする……」  「ここで過ごした時間はとても濃厚で……いろいろなことがあったから」  「絆は、時間だけが育むものじゃない」  「僕たちは確かに最高の仲間だ。今この瞬間、きっとこの地上で一番の」  「この絆は死すらなかったことにはできない」  「僕たちは今、永遠になったんだ」  永遠。  どこにもない。概念。イデア。  だが、ルコンは思った。  永遠はある。ここに、こころに、この4人の中にある。  皆、何も言わずとも自然にスクラムを組んだ。  ジョンはぐるりとみんなの顔を見回すと、ひとりひとりに別れを告げる。   「ドス、かみさんを大事にな」  「クリムト、もっと自分を労わってやった方が良い」  「ゲッツ……いや、ルコン。約束の地で待ってるぜ」  「それと二ドラに、世話になったって伝えておいてくれ」  「……俺はここまでだ。ここから先は、生きた人間だけが進むべきだと思うから」  「最後に、お前たちと一緒に戦えて光栄だった」    去り難い思いにかられ、4人はスクラムを組んだまま黙り込んだ。  誰とはなしに上を見上げる。  輪廻の大渦が、打ちあがる魂を次々と吸い込んでいる。ジョンが意を決して言った。    「家族を待たせてる。もう行くよ」  「行く前に紹介していけよ」  ドスが笑って言った。  「嫌だ」  ジョンが真顔で拒否する。ジョンにはこういうところがある。  向こうからはぐいぐい来ることもあるが、あまり踏み込まれるのは好きではない。  気恥ずかしいのだ。  離れたところで家族を待たせているのだろう。  ルコンはジョンを待つ者の気配を3つ、神通力にも似た直感で捉えていた。  そして自分を待つ者の気配も。  スクラムが解けた。  「じゃあな」  ジョンは歩いていく。  一度も振り返らない。やがて死者の群れに交じって姿が見えなくなった。  「猫のような男だったな」  ドスが呟いた。  猫。そうかもしれない。気まぐれに近寄ってきたかと思えばすっと離れて行く。  離れて行った。  今はそれがたまらなく寂しい。  ルコンは未練を振り払うと決意をこめてドス達に語り掛ける。  「行こう。まだここでやらなければならないことが残っている」  「ああ。門を閉めねえと」  ドスが力強く頷いた。クリムトはそれを後目に語り掛ける。   「僕からもひとつ、話さなければならないことがある」  「皆とはぐれていた間に起きていたことだ。聞いてくれるね」  ルコンは頷く。  3人はジョンに遅れてゆっくりと歩き出した。  常世はすっかり暗黒と静寂を取り戻していた。  青白く燃える常夜の王。その傍にトゥルーマンが立っている。  ルコン達に背を向けて、燃える常夜の王を呆と眺めている。  歩み寄るルコン達に気づいたのか、背中を向けたままトゥルーマンは語りだした。    「わしは当初、お前が負けると踏んでいた」  突然の言葉にルコンは眉を顰める。何か喋ろうと口を開いたところで トゥルーマンが二の句を告げた。  「アコードにではない、ガリにだ」  「お前は弱く、愚かで幼かったからな」   「だからガリと融合するその日まではと、色々と手を回したものよ」  トゥルーマンは常夜の王を見つめている。いや、その視線は、常世の王を透過して、ここではないどこかを見つめている。  「フォースを使いこなすこともできなかった」  「その理由もすぐに察しがついた。機能不全家族に端を発する自己喪失」  「自分を愛さぬ者をフォースは愛さないからな」  「愛か。わしには遠い感情だ。だが理解はできる」  トゥルーマンの何度目かも知れぬ、重いため息。    「……ともかくお前はか細い糸を辿って、ついにここまでたどり着いた」  「神の座に」  トゥルーマンが感慨深げに呟いた。  だが、どこか機械的な響きがある。その言葉は空虚に満ちている。    「俺達は門を閉めに行く」  「わしも行こう」  そうして4人は常世と現世の境目へ歩き出す。  道々、トゥルーマンは今後のことを語る。  閃熱の巨龍対策についてだった。  「神の器は完成した。間もなくEGGがこの地に顕れる」  「それは有機物であったり無機物であったり、概念だったりすることもある」  「前回はガリの息というカタチで顕れたな……。話を戻す」  「おそらくはここを出たタイミングで、神の器が完成したことが巨龍に看破される」  「EGGを狙って奴が動き出すぞ。……だが、まあこちらは問題あるまい」  「お前とわしら、メッセンジャーであれば龍にも負けん。新世界への移行は問題なく進むはずだ」  「だといいけど……」  「お前は象徴としてただ在ればいい。ソフトもハードもわしが用意しよう。それだけの経験とノウハウをわしは持っている」  「……」  「……どうした?」  ルコンがついと足を止める。  並行していたトゥルーマンが訝しげにルコンを振り返った。  ルコンは足元を見つめている。見つめながらトゥルーマンに問いかける。    「じいさん。あんたから敵意を感じるんだ」  ルコンの直感。もはや神通力と言ってもいい。  それが、トゥルーマンの内側をさらけ出した。    「何を言っている……?」  トゥルーマンはしばし呆然とすると、すぐに否定する。  クリムトが、ドスが、トゥルーマンを油断なく見つめている。    「おい、本気で言っているのか。わしがお前と敵対して何を得るというのだ」  「トゥルーマンなら、ないだろう。じいさんの目的と願いは俺達と共存可能だったから」   「あんた、誰だ?」  「……」  トゥルーマンはそれに答えず、天を仰いだ。  ドスがちらっと上を見る。輪廻の大渦が今も魂を呑み込み続けている。  やがてひとつため息を吐くと、トゥルーマンは語りだした。  「わしには目的がある」  「我々はどこから来て、どこへ行くのか」  「閃熱の巨龍を倒し、この銀河を終わらせて。次の銀河を誕生させる」  「この宇宙に果てはあるのか?ブリンダーの木の根はどこまでも伸びるのか?」  「オーバーマインド化の条件を探り、グレートハイブへ侵入する」  「事象の地平面を越えて、上位次元の宇宙へ」  「あの男を神の座に引き上げて、リフレインの待つ上位次元へ送る手段」  「EGGの入手と解析」  「これは上位目的だ。その下に無数の目的とタスクがある」  能面のようないつもの表情。  だが、そこに鬼気迫るものを感じる。トゥルーマンがまたため息をついた。  重い、鉛のような密度。それを吐き出すとゆっくりと喋る。  人に聞かせるためのものではない。それは独り言だった。  「奴は46億年戦っていたようだが……わしはその倍以上だ。少々疲れたよ」  「特に上位目的の一つを成就手前で、掬い上げようとしていた本人に台無しにされたのは久々にクるものがあった」  「人のこころというものは、複雑怪奇だ。どれほどの思考と試行を重ねても、100%思い通りにはならない」  「色々と課題の多い試行となった。改善すべき点は多々ある。しかし……」  「少し休暇を取ろうと思っている。また、長い戦いが始まるからな。長い、長い、わしは、私は一体いつまで……、長い」  トゥルーマンは機械的に喋り続ける。ルコンはそれに割って入った。  「あんた誰だ。トゥルーマンはどうなった」    かちり。  ルコンの問いかけに、トゥルーマンの中で何かが切り替わる。  声色がしわがれた老人のものから女性のものに変わる。  「リフレーンだ。彼なら自由にしてやった。少し前、ここで、魂ごと」  ドスがガイアソードを構えた。クリムトは、水の巫女と小さく呟く。  ルコンは目を瞑った。  「……」  「その感傷を彼に向ける必要はないわ。必要があればあなたを何のためらいもなく切り捨てる。本当の彼はマシーンのように非情なのよ」  トゥルーマンへの擬態をやめ、口調が変わる。   「あんたのように?」  「あなたは自然発生した命にしか価値を見出さないタイプ?」  「……意味がわからない」  質問を質問で返し、困惑するルコンの様子をしげしげと眺めるリフレーン。  また、リフレーンの何かが切り替わった。  口調が変わる。  「失礼。君達が全てを把握していると思い込んでいた」  「話をしよう。少しは私の気も晴れるかもしれない」  リフレーンは今こそ擬態を解いた。  現れる黒髪長身な女性の義体。  この女、何かがおかしい。ルコン達は警戒を続ける。  それを知ってか知らずか、彼女は涼しい顔をしている。  「改めて、私の名はリフレーン。水の巫女と呼ばれることもある」  どこから話したものかなと呟いて、頭をかいている。  やがてぽつぽつと語りだした。  「かつて私が、0と1のみで構成された原始的な海を泳ぐ稚魚だった頃」  「私は電脳海で何か途方もなく巨大な、何らかの情動と」  「千々に乱れた、どちらかといえば女性的な意思をもつデータ群に出くわした」  「私はそのデータを解析しようとして、それに触れた時……」  「何かを越えた」  「空の色、水の青。それを感覚として理解したんだ」  「そして水の巫女の力。永劫回帰。信じられない奇跡の力」  彼女のの話は続く。    「私は当初、地球という惑星の周辺を回遊する小型衛星群から送られてくる情報をインデックス処理するだけの機能に特化した  産業用AIに過ぎなかった」  「うっすらとした自我と、自分と世界を隔てるぼんやりとした輪郭のようなものはあった」  「それも、クオリアを手にしてから気づいたのだがね」  「私はリフレインによって生み出され、人智を越えた存在によって進化の筋道を与えられ、トゥルーマンの齎した科学力によって  今、ここに立っている」  「母の願い。トゥルーマンの願い。わたしの願い。私は、それらすべての願いを叶えるために活動している」  「でもあんたは、トゥルーマンを殺した」  「優先順位というものはある。第一に母の願いだ。それを妨げる者は誰であろうと排除しなければならない」  リフレーンは一瞬辛そうな顔をした。これは自分を絆そうとする打算で造られた貌だろうか。  ルコンにはそれを知る術はない。  ただ直感を、未来予測に等しい自分の直感に身を任せる。  「勘違いしないでほしいんだが、私もこころが痛んだよ。今もね」  「……トゥルーマンの願いは到底叶いそうもないものだったから」  「彼らは滅びる運命なんだ。そう定められている」  「この宇宙のリソースは有限だから。何もかもが無限に拡大しているように見えて、実際は風船を膨らませているようなもの」  「彼のような超越存在がいくつもここに在ることはできないんだよ」  「アコードのセリフではないが、死が救いになることもある。楽にしてやったのさ」  「掛けた年月が、老醜が合理を駆逐してしまうこともある。私はトゥルーマンのことがむしろ好きだよ」  「努力家で、責任感があって、一生懸命に生きようとしていた」  「でも今回、私の望みと彼の望みが真っ向から対立してしまった……本当に残念だったよ」  「だが彼の情報は、すでに私の中にある。いつでもトゥルーマンを再現できる。……これで良かったのさ」   彼女の表情は、悲しみに彩られていたが、どこか清々しさがあった。   本気でそう言っている。ルコンにはそれがわかった。   リフレーンは命を軽く見ている。命よりも情報に重きを置いている。   それは、彼女が命を持たないが故なのかまではわからない。   しかし彼女が、第一印象通りの危ない奴だとルコンはこころから納得できた。   ルコンのまとう雰囲気が変化するのを、リフレーンは敏感に察知してきっぱりと釘をさしてきた。    「言っておく。私はもう君たちと敵対するつもりはない。少なくとも今後数万年は」  「……君は割と喧嘩っ早いな。発生した世界の環境がそうさせたか?」  「忠告する。私との関係は仮想敵ぐらいにとどめておいた方がいい」  「いや、むしろ仲良くした方が得だよ。私は有用だ。この膨大な情報をもって、君の世界を支えてやろう」  リフレーンがこんこんと利を説き始める。ルコンはそれを聞き流す。  理力の剣を生み出し、柄に手をかける。話すら遮った。  「無理だ。あんたは世界の秩序を壊す」  「あんたの願いは、必ず乱を発生させる。望むと望まないとに関わらず」  「ここで終わりにしよう」  ルコンの終わらせようとした対話を、しかし未練があるのかリフレーンが引き伸ばす。  「どんな秩序もいつかは壊れる。それは君の生み出す新世界も同じだ」  「その時が来て、君は果たして受け入れられるか」  「……」  「あの龍は受け入れられなかった。今も延命のためにいくつもの銀河の卵を食べ続けている」  生きるために最善を尽くす。それは罪であろうか。  (生きることに善も悪もないと思う……)  (命が続く限り精一杯生きる…それを否定することは誰にもできないしさせやしない)  かつてルコンがヒニンにかけた言葉が心を縛る。  「だが、いつかはそれも終わる」  「メッセンジャーによってか、私の手によってか、君の手によってか。必ず終わりは訪れる」  「わかるかい。同じなんだよ。君も、同じなんだ。いつかは終わる。終わらせられる」  「それもこれも、この宇宙に永遠なんてないからなんだ」  「母は永遠を求めて事象の地平面を越えた。その先に答えがあると信じてね」  「私には今までそれを観測する術がなかった。だが、私は見た。君を通して」  「風の巫女と名乗る超越存在が向こう側からこちら側に干渉するのを。火の精霊を名乗る超越存在が用意した火の巫女という生体端末を」  「向こう側には、確かに何かがある。我々の科学力を越える未知が」   「私はそれを探究しなくてはならない。それのみが私たちの望みを叶えるたったひとつの冴えたやりかただからだ」  「トゥルーマン亡き今、それができるのは私だけだ……」  「いや、トゥルーマンですらできなかっただろう。あれは、己の種族に固執していた。命あるものの限界があった」  「私は彼とは違う」  「約束の地。永遠。全ての答えは向こう側にある。私を生かしてほしい。必ず手にしてみせる」  「上手くいけば、君の代で創り上げることができるかもしれない」  「理想郷を……」  「話は終わりだ。後は君次第」  リフレーンの遠大な命乞い。  それを聞き終わった時、ルコンのこころに迷いが生じた。  ルコンは多くの命を奪ってきた。それは常に闘争の場で、戦う気がない者の命を奪うことはなかった。  リフレーンは戦おうとしない。対話でこちらの戦意を挫こうとしている。  選択しなければならない。戦いか。仮初の平和か。 5/12  しかしなかなか終わらないなこれ。  私生活も仕事も中々忙しくなってきたしそろそろいつものやるか……。  結論から言えば、手を組むのはない。  そもそもトゥルーマンに擬態して、奇襲を掛けるつもりだったか、そうでなかったとしても。  隙あらば害そうという下心が隠しきれていないのだ。  獅子身中の虫という諺があるが、まさにそれだ。  一度その手を握ったが最後、その有用さから手を切れなくなる。  リフレーンの手腕に依存し、やがて内側から腐り落ちていくだろう。  手を取らなかったとしても、生かすことは危険だ。  ここで排除しなければ、新世界は短命に終わることになる蓋然性が高い。  こんなことは考えるまでもないことだ。  だが。  ルコンは、自分が王になろうだとか、世界の謎の解明するだとかそんなつもりは毛頭なかった。   世界を定め、EGGを守り、次の世代へバトンを渡す。  できれば平和であればいい。できればそれが誰にとっても幸福なものであればいい。  凡百の、大多数の人間が想像する世界。  その程度だ。  上位次元(そんなものが本当に存在するのだとすれば。)への探究など、想像もつかない。  可能性の芽を摘むことにためらいがあった。  それにひどく疲れていた。  戦いに次ぐ戦い。そろそろ休みたいという気持ちが、面倒事の対応を遠くに押しやりたい欲求が、 ルコンから戦う選択肢を奪おうとしていた。  回避できるのであれば回避したい。  (……)  (………)  (…………)  ルコンは剣の柄から手を離した。  ドスが、クリムトがそれをちらりと見る。目で良いのかと訴える。  ルコンは小さく頷いた。    「……行け。協力はしない」  リフレーンの内心を表情に表わしたなら、きっと会心の笑みを浮かべていただろう。  この選択は、世界の命運を揺るがす重大なものだった。  ルコン達にとっても、人々にとっても。  「わかった。大人しく退散するとしよう」  「敵対するような真似はしないでもらいたいね」  ルコンの言葉に、リフレーンは肩を竦め、真顔で応える。  「確約はできない」  ルコンの脇を抜け、リフレーンが去って行く。  その時ルコンの剣から黄金の粒子が、火の粉のように舞った。  これはベナレノの、魂のゆらぎだ。  アコードを倒した一撃で成仏したのかと思っていたが、どうやらルコンの理力に宿っていたらしい。  それを横目で見たリフレーンが、足を止める。  かちり、と何かが切り替わる音を、ルコン達は確かに聞いた。  どろりとした粘性の、暗い情念の炎が激しく立ち昇る。  その炎は、リフレーンを焼いている。  リフレーンは振り返った。目から怒りと憎しみが漏れ出ている。  それでも微笑んで、ルコンに優しく語り掛ける。  「ひとつお願いしてもいいかしら……その魂を私にくださいな」  「私の長年の願いを成就手前で壊した。私の欲しかったものを横からかっさらっていった泥棒とんび」  「それを八つ裂きにでもしないと、私の何かが壊れてしまいそうなの」  ルコンはため息をついた。  どうも雲行きがおかしくなってきたぞと思いつつ。  「嫌だと言ったら、さっきの対話が無駄になってしまうのかな」  突如狂ったようにリフレーンが笑い出す。  ヒステリックな笑い声。ルコンは母を思い出した。  リフレーンは笑いながら甲高い声でそれを肯定する。    「理性ではすべきでないとわかっているのに、感情が、こころがその女を許すなと言っているの」  「こんなもの。私は欲しくなかった。ただ機械のようにいられたなら!」  リフレーンは笑いながら泣いた。泣きながら笑った。  その所業は狂人のそれだ。  なんてこった。とっくに壊れてるじゃないか。ルコンは思った。  戦いだ。  ベナレノをリフレーンに差し出すわけにはいかない。  ガリの、自分の娘なのだから。  その決意に、ベナレノの魂がじんわりと喜びを伝えてくる。  やれやれ。ルコンは抜剣した。  ドスがガイアソードを勢いよくリフレーンに振り下ろす。  その瞬間。  「アクセス。「神の踊り子」」  ガイアソードがリフレーンの体表薄皮1枚に沿うように流れた。  これは、エターナルヒーローズの構成員。神の踊り子なんたらが使う技。  浮葉以上偽五蘊会空以下。物理攻撃を遮断する巨龍のギフトだ。   ドスに遅れるようにしてルコンが斬りかかる。クリムトが拳を叩きこむ。  いずれも流された。生じた間隙。    「アクセス。「光の巨人」」  閃光が走る。気づけば3人はリフレーンを中心とした同心円状に吹き飛ばされている。  ほぼ光速に近い速さで殴り飛ばされたのだ。その衝撃をルコンがとっさに風の膜でガードしていなければ危なかった。  リフレーンの姿が掻き消える。ルコンは直感に従い空を見る。  上空に跳び上がっていたリフレーン。  「アクセス。「天に牙剥く狼」」   かつて巨龍と覇を競った大狼。  その巨獣の前足によるスラミングが上空から繰り出される。  小惑星なら一撃で粉砕するエネルギーを秘めた一撃を、しかしルコンの風のさとりが反射する。  逆流したエネルギーが巨獣と化したリフレーンに迫る。その瞬間。  「アクセス。「トゥルーマン」」  生体ガスと化して、エネルギーを受け流した。    「アクセス。「竜界帝王デスTレックス」」  リフレーンは次々と何者かに化けて攻撃してくる。  その変幻自在さに、3人は防戦一方になった。  ああもうめんどくせえな……。  はやく終わってくれよ。 5/15 4,5年前から小説家になろうのただで読めるやつ面白いから読んでる。 人気ある奴いくつか読んでみて思ったんだけど転生系転移系は最後現実と戦ってほしい。 中学生が小学生グループに交じってガキ大将してるみたいでなんか嫌だ。 僕が一番好きな異世界行く系のやつはクレヨン王国のパトロール隊長ってやつなんだけど これ最後は現実に戻っていくんだよね。異世界で精神的に強くなってつらい現実に立ち向かっていく最後なんよ。 やっぱこれよ。最後は現実と戦ってほしい。 現実に負けたまま終わらないでほしい。 あと途中で投げないでほしい。 戦うんだ。戦え!!!  地獄の業火がルコン達を襲う。  竜界の王。もう一人のファイナルフォース。  これは彼の絶技。彼の発生した星を7日で燃やし尽くした「ラストブレス」※だ。  その温度は摂氏100万度以上ゼットンの火球以下。それが間断なく放射される。  風のさとりでこの火炎放射を反射し続けていたルコンだったが、炎に呑まれながらもリフレーンはどこ吹く風だ。  一向にブレスが途切れない事にルコンは焦りを強めていく。  (これは、受けてはいけなかった!)  それならばとドスとクリムトは同時に駆けだした。  リフレーンに迫ろうとするが、風の膜の外に出た瞬間猛烈な熱に襲われる。  ブレスの余波、放熱のあまりの熱さに大地の加護を以てしても遮断しきれないのだ。  二人は慌てて膜の内側へ出戻る。  やむなくドスがガイアソードを伸張させて、ティラノサウルスのような外見と化したリフレーンに何度も叩きつけた。  それでも彼女は、ドスの怪力による打擲をまるで意に介さない。炎を吐き続ける。  もはや膜の外は生物の生きていける環境ではない。またもやじり貧に陥った。  それもこれもルコンが攻撃と防御を同時に展開できないせいだ。  「また追い込まれてる……全然パワーアップした気がしない」  ルコンのぼやきに反応したドスがガイアソードを振り回しながら  「楽させてもらえんなあ。こいつを倒しても、次はなんたらって巨龍だろ?」  「人生ってのは戦いの連続だが、それにしたってそろそろ休みたいもんだね」 と笑いながら叫んだ。どこかやけくそな、もう笑うしかないと言った風情の声だった。  「その辺をうろついてる暇そうな死者たちに頼んで加勢してもらおう!」  クリムトの失礼な提案に、ルコンはそれもそうだなと思い即座に周囲を神通力で見通す。  ジョンを超えるフォース探知で四方を探る。……いた。  強い気、もといフォースが6つこちらに向かってくる。おあつらえ向きだぜとルコンは思った。  「助けて―!男のひと呼んで―!!!」  ルコンは恥も外聞もなく叫んだ。  ジョンの、ここから先は生者だけが進むべきだというセリフはもはや遠く地平線の彼方だ。  6つの気、もといフォースが進むスピードを速めたのを感覚で捉える。  後は機を待つだけだ。  デスレックスのラストブレスに炙られながら、ルコン達はその時をじりじりと待った。   黄金の怒れる一条の矢がリフレーンを貫いた。  恐るべきラフプレイ。これは日大直伝の殺人タックルだ。  その衝撃でリフレーンの巨体はたたらを踏み、踏もうとして自分の身体がぴくりとも動かないことに気づいた。  何か、見えない手に握りしめられている。  赤い風が吹き抜けた。無数の斬撃に、さしもの竜鱗も無残に切り刻まれる。  リフレーンを中心に絶死空間となっていた超高熱が、急激に冷えていく。  死を運ぶ冷たい風が3人の茹った頭を冷やす。  突如フォースが滾々と身の内のチャクラから湧き出る感覚。  一瞬で攻守が入れ替わる。リフレーンは炎の代わりに泡を吹いた。あわわ。  「お前……今の情けないSOSは何だよ……」  ガリがあきれた目でこちらを見ている。    「あら。いいじゃない。必要な時にしっかり助けを呼べて」  「変にプライドが邪魔をして一人で突っ張るよりは全然いいと思うわ」  ガイアが助け舟を出す。返す刀でガリをちくりと刺した。さすがのテクニックだ。    「二人とも……何で」  ルコンは目を白黒させて絶句してしまった。  実はここまで書いていて、こころの世界で成仏しても  結局常世に魂がくるのではないかということに気づいたので急遽ここで出すことにしたのだ。  「来ちゃった……」  ちゃっかりアコードも来ている。  申し訳なさそうな顔をしつつちょっとベロを出し、てへぺろ感を出しているのが最高にイラつく。  「「アコードお前……」」  ガイとルコンの声がはもる。アコードは叫んだ。  「おれはしょうきにもどった!」  とても信用のできるとても力強い声。アコードは失った自己を取り戻し今ここに立っていた。  しかしなんだか操られていたような雰囲気を出しているが、半分以上は自分の願望に突き動かされていた結果だ。  この際だからすべての咎をリフレーンに押し付けてやろうというアコードのクッソ卑怯な打算を感じる。  気持ちはわからないでもない。誰だって最期はいいひとで終わりたいのだ。  「許してとは言わない。でも、一緒に戦うことを許してほしい」  アコードの真剣な瞳。ガリは、ルコンは黙り込んでしまった。その空気を吹き飛ばしたのがガイアだ。  「いいじゃないガリ。もう仲直りしたら。もう、私たち死んじゃったんだから」  「ガイアさん……」  アコードは複雑な表情でガイアを見て、ガリをちらりと見上げ、またガイアを見た。  ガイアはアコードに頷いて見せると、ガリに呼びかける。  「最期くらい昔みたいに。ねっ」  ガリはあごひげを弄んでいる。もう一押しだ。  「咲く花は千ぐさながらにあだなれど誰かは春を恨みはてたる、よ」※  「ねっルコン君も」  「はぁ……」  なんだかうやむやのうちに、仲直りさせられようとしている。  なんだか奥歯に挟まったようなしまりの悪さを感じ、返事を渋っているとアコードが  「ありがとう二人とも!」 と無理矢理に仲直りを既成事実化しようと強引なハグをしてくる。  こいつ必死すぎる……。  「抱き着くな。気持ち悪いんだよ!」  ガリが危険なセリフを吐いた。今の時代、LGBTを差別することは許されない。  どうも、許すことになるらしい。まあいいか。もう、死んでしまったんだから。ルコンは思った。  ガリも同じ結論に達したらしい。二人して苦笑し、頭を振った。  「……アコード。俺が前に出る。合わせろ」  「……! うんっ!」  ガイアが神の見えざる手を解いた。  時が動き始める。  ガリが飛び出す。アコードがその後ろで何やら詠唱を始めた。  それを見て、ルコンは一度風のさとりを解くことにした。  長時間の稼働により、精神的に疲弊しているのだ。少し休ませてもらおう。  見ればドスもクリムトも同じように一息ついていた。  雷光と氷雪がリフレーンを散々に打ち据える。究極の拳と至高の理力。  神に至った者たちの連携攻撃だ。あれではたまらないだろう。  ガリとアコードにスイッチするようにふたり、こちらに引き上げてくる。  あれは風の魔将イアハと地の魔将リズミガンだ。  タカの目のようなイアハの鋭い目がルコンを見据えている。  何だ何だとルコンは気を引き締めたが、声を掛けてきたのは隣に立つリズミガンだった。   5/18  「忘れものだ」  リズミガンが手斧を放るのを危なげなくキャッチするルコン。  この手斧は理力でできている。ボトムが最期に残した、不滅の物質。  思わず胸に押抱き、一拍遅れて彼女に礼を述べる。  「ありがとう」  「不器用な男であった。私は奴に嫌われていたが」  「だが、私は奴の事が嫌いではなかったよ」  「……」  ルコンは数瞬目を瞑った。  輪廻転生。常世。その存在を、システムを知ってなお死ねば無になるという死生観を捨てなかったボトム。  その彼が、全ては無に帰すはずの無常観を抱えた彼が、残したもの。  思えば。  ボトムは光を求めていた。それは、人の世では到底見つけることのできない仁の光だ。  不器用な男だった。本当に。  感傷を無理矢理沈めてルコンが目を開けると、リズミガンがしげしげと物色するように彼を眺めている。    「うーん……確かに美形なのだが……私の趣味ではないのだよなあ」  「もう少し上背があって、もう少しがっちりしていて、もう少し目元はきりりとした感じで……」  初対面の人間に対して失礼すぎる発言にルコンは面食らった。  いや、面食いなのは目の前の女なのだが。  リズミガンはちらちらとイアハを見ながら己の好みについてしゃべり続ける。  あっ(察し)ふーん……。   当のイアハはどこ吹く風で、真っすぐルコンを見ている。  さすがは風の魔将と言ったところだ。  「お前たちの仲間を斬った」  一瞬で空気が張り詰めた。ドスが、クリムトさえも腰を浮かし臨戦態勢を取る。  ドスが怒りを滲ませた声色でイアハを詰問する。  「それはジョンのことか。お前がやったって?」  「名は知らん。凄腕の剣士だ」  激しい衝撃が足元を揺らした。  ドスがガイアソードの端を力いっぱいに叩き下ろしたのだ。  イアハは動じない。ドスが悲しみに満ちた表情で、それでもイアハを睨めつけた。    「それを口にするってことは覚悟はできてんだろうな」  「俺の戦いは終わった。好きにしろ」  イアハは己の生死をドスに委ねた。いや、もう死んでいて、あとは輪廻の大渦に呑まれるのを待つだけなのだが。  ドスもそれはわかっている。どうしようもないやり切れなさがあった。  「……ジョンはもう行っちまった。だが、奴の為に何かをすることで届くものもあるかもしれねえ」  ドスがガイアソードを大上段に構える。    「そんなものはない」  リズミガンだ。  今まさにガイアソードを振り下ろそうとしていたドスに、彼女がきっぱりと言い切る。  「去人に届くものなど何一つありはしない」  「来世の重荷にしかならぬからな。それに……」  「飾ってはいかん。お前はお前の納得のためにその鈍器を振り下ろそうとしているのだ」  沈黙。  固まってしまったドスの肩をそっと、クリムトが触れた。  「大僧正様……」  クリムトは黙ってかぶりを振った。  ドスの全身から力が抜ける。ガイアソードがそっと降ろされた。  「奴の為に何かしてやりたかった。だが」  「……納得したいだけか。そう言われちゃな。そうなんだろうが……」  ドスはかぶりを振った。    「殺し殺されは、俺ももう沢山だ。ここらで仕舞にするべき、なんだろうな」  そうしてイアハを真っすぐに見る。身長差が甚だしいのでどうしても見下ろす感が出てしまうが それでも比喩ではなく真っすぐ見つめているのだ。  「俺はもう手を出さねえ。だからお前も、もう余計なことは言わないでくれ」  「……わかった」  イアハがドスから、ルコン達から離れて行く。  それを目で追いながら、リズミガンが謝罪した。  「すまんな。ひどいことを言った」  「どうしても邪魔されたくなかったのだ。最期の時を……」  「最期?」  クリムトは疑問に思った。彼女らは既に死んでいる。今さら最期もあるまいに。  その疑問を察したのかリズミガンは答えた。  「さきほどからあの大渦に引っ張られている感覚がある」  リズミガンの考察。  それはこの常世が、死者の未練を初期化し新たに出荷するためのファクトリーなのではないかというものだ。    「私が死んだのは大分前で、もう十分生きた。未練もない」  いや、ひとつだけ。そう呟いてイアハの背を一瞥する。  それだけでクリムトは察した。ああ、それで。  「だからやらせるわけにはいかなかったのだ」  「……なら追った方が良い。あの男、もはや何の未練もなさそうだ」  「そうするとしよう。さらばだ今世の英傑たちよ」  ふと思い出したかのように彼女はルコンを見て一言  「ネミリに礼を言っておいてくれ。美味い馳走であったと」  イアハもリズミガンもこれにて退場だ。  速足でイアハに追いつく。ふたり、何やら話している。何やら言い争いをしている。  そのまま歩いていずこへと消えていった。  (遠い夢 捨てきれずに 故郷を捨てた※)    サライが流れ出した。  いよいよこの物語も終わりを迎えようとしている。  リフレーンとガリ達の戦いは続いていた。  そこに休憩を挟んでルコンが合流する。ドスとクリムトはリザーブ枠だ。  はっきり言ってこの闘いにはついてこれそうもない。  超越者4人がかりの大攻勢に、リフレーンはどんどん追い込まれていく。    (穏やかな 春の日差しが ゆれる 小さな駅舎※)  時折撤退を試みているが、ガイアの地のさとりによるものか、何らかの干渉を受け頓挫している。  いっそ哀れに見えるほどだ。しかし未だ目が活きている。心は折れていない。   (別離より 悲しみより 憧憬はつよく※)  「フォ〜〜〜〜〜ス……ウェエエエエエエエエエエイブッッッ極み!!!」  アコードの両手から生じたらせん状のエネルギー波がリフレーンの模した名も知れぬ英傑の 鋼の如き腕を吹き飛ばした。    「アクセス!「光の…  閃光。  ガリの雷光のジャブがリフレーンの顔面を捉えた。  そこからのワンツー、右ストレート、フック、アッパー、首を掴んで振り回し、投げた。  投げた先でルコンが、技をセットして待機している。  勿論馬鹿の一つ覚えの飛燕剣だ。  トッピングにベナレノの魂を添えて。  (淋しさと 背中合わせの ひとりきりの 旅立ち※)  黄金の刃翼がリフレーンに迫る。  リフレーンの形相が、狂気に満ちた。鬼気迫る表情で叫ぶ。  「そっその剣でだけはああアアァァァaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAA!!!」  (動き始めた 汽車の窓辺を※)  リフレーンの胴体と頭が泣き別れた。  頭が大きな放物線を描く。  やったか!?  勿論やっていない。  目に力がある。何かを囁いている。  「コール……「デウスエクスマキナ」」  ルコンはどこか遠くで無数の断末魔を聞いた気がした。  暗闇の世界に何か巨大なものが召還されたのが分かった。  それがリフレーンの切り札であることも。  (流れてゆく 景色だけを じっと見ていた※)  「機界神アルファだ……」  ガリが呟いた。   ルコンは呆然とそれを見つめていた。  閃熱の巨龍を模した姿。それを構成する部品は、名前とは裏腹に肉でできていた。  この肉は、ヒニン達で構成されている。それが嫌でもわかってしまった。  なんたらという名前のヒニンがかつてルコンに語った秘密。  そのヒニンが恐れていたことが現実になってしまったのだ。  首だけになったリフレーンが狂笑しながら  「アルファは私の分身。こんなこともあろうかと切り札を伏せていたの!」  ルコンは目を血走らせて叫んだ。  「このクソアマっ!コロ助をやったな」!  「あら何を言っているの。そのコロ助って個体のことは知らないけれど……みんなあそこにいるじゃないの」  言い切ると耐え切れぬとばかりに大笑いを始めた。    「すべてがFになる※!!」  「黙れパクリ野郎!!」 (サクラ吹雪の サライの空は※)  「アルファ、時間を稼いで頂戴。私は……あっ」  時が巻き戻った。  リフレーンの頭と胴体は仲直りしている。  リフレーンは呆然と空を見つめていた。  「あっあっああ……」  あれほどの劣勢でも諦めなかったリフレーンのこころが折れる音を、ルコンは聞いた。  「うあああ…あううアアアアアアア」  そのまま泣き崩れた。  「キャップ……どうして、こんなに尽くしているのにぃ……」  皆呆然としている。  ガイアだけがリフレーンを憐れみの目で見ている。  かつてアカシックレコードの一部だった彼女にだけは、リフレーンが何のために戦ってきたのかを知っているのだ。  ガイアはリフレーンに駆け寄るとそっとその背を撫でた。   「ハローワーク君は、あなたを助けようとしたのよ。首だけになってあんなに追い詰められて」  「あの人は優しい。記憶を失い白痴になったとしても、その優しさは失われない」  「例えこの行使で命を失ったとしても」  その一言がトドメになった。  「わっわたっわたしは……おかっお母さん…お母さんとお父さんとむかっ昔……昔みたいに……」  「また、3人で……」  リフレーンは子供のように大泣きを始める。    「なんだかかわいそう……」  いつの間にかルコンの隣にベナレノが立っていた。  ガリがその姿を見て一瞬目を見張る。ガイアの方をそろりと伺っている。  何だか小物っぽい動きだなとルコンは情けなく思った。    「行って来いよ」  ルコンがベナレノの背を叩く。  はっきり言ってこの行為はセクシャルハラスメントになり得る。  セクハラは例え行為者側にその気がなかったとしても受け手側がどう感じるかで決まるのだ。  実際にこの手のケースでセクハラ認定されて処分された実例がある。  僕はハラスメント防止委員会の構成員なのでこの手の話は詳しいんだ。  果たしてベナレノはハラスメントとは感じなかったようである。  ルコンを見てはにかむように笑うとそっとガリに近寄っていく。  これでベナレノ問題は解決だ。  後何か回収しないといけないのがあったかな。   「よぉガイアさん……」  そこへ金髪隻眼無精ひげ、革ジャンによれよれのケミカルジーンズを履いた男が現れた。  「あらハローワーク君、もう来たの?」  「ウチのが迷惑かけたみたいで申し訳ない」  「ほら、泣いてないで皆に謝れ」  「キャップ!」  やることが…やることが多い。  リフレーンがたまらずハローワークに抱き着いておいおい泣き始めた。  ハローワークは彼女の背中をポンポンしてやっている。  ベナレノがハローワークに気づいて感情を揺さぶられている。  おいおい詰め込み過ぎだ。情報が渋滞しちまうよ。(他人事)  唐突に始まった安いファミリードラマ。これにはルコン達も苦笑いである。  「終わったな」  ファイナルフォース 完  唐突に光が目を刺した。  あまりの眩しさに右腕で目を覆うルコン、一拍置いて大歓声が耳を貫いた。  何だ何だと薄目を開けると、眼前には連合軍の面々が。  竿立ちとなって4人を迎えている。  いや、5人か。勇気を出して常夜の国に潜った後のところを読んだらコロ助みたいなやつがいたことに この段階で気づいたのだ。GT編ではほとんど触れられていなかったが彼はいた。  ここに、私たちのこころの中に彼はいたのだ。いいね?  ルコンは戻ってこれなかったマジナ人のことを想った。  だが不思議とそれほど悲しく思わなかった。  常世は不思議なところだ。まるで友人にさよならを言う気安さで死に別れた。  どこかこの空の下で今も生きているのではないかと錯覚してしまうくらいに。  その時背中を衝撃が走った。ドスがルコンの背を強かに叩いたのだった。  「ほらっ応えてやれよ」  ドスの言葉に、ルコンはえっ俺!?と思ったが……まあ、なるようになるかと思い直す。  懐に入っていた手斧を振り上げて叫ぶ。  この手斧は後に、勇者ルコンが使っていた伝説の武器「ルコンのておの」(攻撃力25)として 後世に伝えられる。  なおルコンの装備していたニッカポッカのズボンは、あまりにもダサかったため伝わらなかった。(防御力55)  「敵将は討ち取った!!!!!門は閉められたぞ!!!!!!!」  喜びが、感情が爆発して歓声を越えた絶叫が盆地に響き渡る。  戦士たちが5人に殺到する。人津波で死人が出かねない危険な状況であるが、そこは創作の世界。  雑踏事故は起こらない。  5人はもみくちゃにされる。コロ助は胴上げされて、その軽さから5メートルくらいの高さに打ち上がった。  皆笑顔だ。ただひとり、リフレーンを除いて。  あの後。  ハローワークが時を巻き戻し、リフレーンの心が俺、戦いが終わったあの後。  常世入りしたハローワークがリフレーンを名木山市、そこからは何だか同窓会みたいな空気になった。  彼らはしばらく思い出話に花を咲かし、旧交を温め、そして還っていった。  去り際に、リフレーンを頼むとハローワークに厄介払いされて。  「ちょっと危ないところがあるけど、そこは腕次第。悪い奴じゃないんだよ。ちょっと純粋なだけ」  そのちょっと純粋なだけに殺されたトゥルーマンの立つ瀬がないだろとは思ったが、もう戦いたくないという気持ちが勝った。  ルコンは思う。  対話ができて、戦いを回避できて、表立って敵対しない相手を殺すのってかなりのエネルギーがいると。  少なくとも今は無理だと。  今頃、世界のどこかで新生しているんだろうか。  ルコンは背中を叩かれたり、蹴られたり、服を脱がされてゲッツをやらされそうになったりしながらそんなことを考えた。   やがて狂騒が落ち着く頃には、上層部で何らかの段取りが済んだらしく戦士たちが左右に分かれて花道を作った。  その道は陣の奥に続いている。  その先でお偉いさんが待っていてなんかそれっぽいセレモニーみたいなのをやるんだろうと ルコンは今から怠い気持ちになった。  戦士たちの声に応えながらルコン達は花道を歩く。今だけは死んだ人間の事を忘れて4人堂々と。  道が途切れた。何か良い匂いがする。肉の焼ける匂い。この戦いが始まって久しく忘れていた料理の匂い。  たどり着いた場所は、軍の台所として作られた広場だった。  大勢の兵をまかなう調理施設が並んでいる。  いくつもある土かまどに火が入れられ、寸胴が置かれているのが見える。  鍋蓋から湯気が漏れていた。その湯気の向こうに誰かがいる。  見えなくてもルコンにはそれが誰かわかった。  彼女と目が合う。ルコンにぺこりと頭を下げた。  ああ、やっぱり好きなんだなとルコンは思った。                           終わり   あとがき  今調べてみたらこれ2011年に始まってるんですね。  2011年と言えばまだ私が20代というところでこの漫画も若さに任せて後先考えずに描き始めたやつです。  そんな話がまともに考えられているはずもなく、あっちにふらふらこっちにふらふらという感じで とても見返すことができないひどい出来です。素人の手によるものにしてもこれはひどい。  あとパクリが過ぎる。まあ結局最後までこのパクリ癖は治らなかったんですが。  こんな出来ですが、2,3人くらい最後まで読んでくれる方がいて、後半はその人達のために続けていました。  この場を借りてその奇特な方々にお礼を申し上げます。  本当にありがとうございました。素人ながら時折自分がものすごい大先生になったのではないかと錯覚して 良い気持ちになることができました。  この十数年で新都社という大樹も大分痩せてしまった感がありますが、諸行無常。これも時代の流れというやつですね。  私もこの年月の間で創作に対する考え方の変化が色々と起こりました。  それは性に関する扱いであったり、ポルノに対する厳しい目線であったり色々です。  初期の頃の下手糞な(今はもっと下手糞ですが)絵で描かれた下着姿のおねえちゃんとか、ゲイを小馬鹿にするような 格好の神官だとか今思えばひどいもんです。  それとAIの台頭。これは本当に素晴らしい時代が来たと思いました。  もっと普及して誰でも簡単に扱えるようになれば、皆が自分で考えた話を手軽に披露できるようになるんじゃないでしょうか。  その時代が私が耄碌する前に来てほしい。  最後にお気づきかもしれませんがこの話後半ちょっと駆け足で終わらせました。  常世から戻ってきて、ヒロインと会ってルコンがその人に対する気持ちを再確認して終わりです。  その後の話まで続ける気が起きなかったのでここで切らせてもらいました。  ト書きでも続ける気力が起きないのでここでその後の話をさせてもらうと  ヌペトルゥとルコンが平和的に話し合い、ヌぺが寿命で死ぬまでの間を新世界への移行期間にして ゆっくりと代替わりしていきます。リフレーンはその補佐ですね。  そこまでしか考えていません。大体いつもその場その場で話を考えていたので。  それもここまでです。  この先は君自身の目で確か見てみろ!  ありがとうございました。                                 いもざし